2021.10.11

対談

「その差別化、本当に必要?」よくある商品開発の落とし穴 – あいおいニッセイ同和損害保険のユーザ調査事例

「その差別化、本当に必要?」よくある商品開発の落とし穴 – あいおいニッセイ同和損害保険のユーザ調査事例

対談者の紹介

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
経営企画部 プロジェクト推進グループ 担当課長 安仲 直紀

同社における新規事業開発をミッションとし、JVでデジタル保険会社の立ち上げや、社内横断プロジェクト等、デジタル・トランスフォーメーションの取組みに従事。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威

東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」の立ち上げ。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を立ち上げ、所長に就任。

現在、 研究所所長および取締役として、インキュベーション事業を牽引。新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど長期目線での事業開発の責任者を務める。

「キャンセル保険」を検討するあいおいニッセイ同和損害保険

垣内 まずは「キャンセル保険」とはどんな保険なのか教えてもらえますか?

安仲 キャンセル保険とは、その名の通り旅行やイベント等のキャンセル料が最大100%補填される保険です。風邪や発熱などの症状や急な仕事、同行者の予定変更まで、様々な理由のキャンセルに利用されています。当社では共同出資する保険会社での提供を検討しています。

垣内 特にコロナ禍においては、緊急事態宣言などの影響もあり、キャンセル費用保険のニーズが高まると考えていましたよね。そんな中、「ユーザの利用状況やニーズを把握して、商品開発に活かしたい」という背景で、弊社に顧客調査のご相談をいただきました。

定量調査(アンケート)と定性調査(デプスインタビュー)を実施

垣内 今回弊社が実施した調査は「定量調査(アンケート)」と「定性調査(デプスインタビュー)」の2つです。

以下の流れで調査を実施しました。

  1. 調査前の仮説・検証ポイントの作成
  2. 定量アンケートの実施
  3. 定性デプスインタビューの実施

それぞれのフェーズについて、振り返っていければと思います。

1)調査前の仮説・検証ポイントの作成

安仲 まずは「キャンセル保険の購買に最も影響するポイントは何か?」の仮説作成ですね。垣内さんが「仮説や検証ポイントのないマーケティング調査は全く意味がない」と言っていたのが印象に残っています。

垣内 仮説がないと、膨大なリサーチコストをかけたのに何のアクションにもつながらない「ゴミのようなデータ」を生み出す場合があります。例えば、なんとなく「キャンセル保険」という漠然としたものへの感想や「顧客の年齢や職業」を聞いたとして、どうしますか?具体的なアクションにつながるでしょうか?何にも使えないとしたら、無駄ですよね(笑)

垣内 一方で仮説を立てて、それを調査・検証していけば「調査はしたものの、次のアクションに行き詰まる」ことは避けられます。 例えば「キャンセル料金が高い旅行は、キャンセル保険のニーズが大きい」という仮説が正しいかを調査・検証するケースを考えてみてください。この仮説があっていれば次のステップの検証に進めるし、仮説が間違っているなら検討しなおせばいいですよね。つまり「調査はしたものの、行き詰まる」ことがなく、すぐに具体的なアクションを実行できます。

安仲 私自身、せっかく高い費用をかけて集めたのにマーケティングに何も活かされないデータを見てきたので、垣内さんの考えには心底共感しました。「わかるわかる」と(笑) そのうえで弊社の仮説は、「キャンセル保険のニーズが高まれば、競合商品も増える。そのため商品開発では、付帯サービスによる競合との差別化が重要」でした。付帯サービスとは、例えば「キャンセル時に、次回同じ宿泊施設を割引」などですね。

垣内 私たちの仮説は「経験上、キャンセル保険は低関与商材(あまり思考せずに購入・申し込みする商材)で、旅行やイベントを予約する流れでそのまま申し込むはず。つまり、そもそも他の商品と比較検討しない。なので『差別化』よりも『いかに予約するタイミングで商品を知ってもらうか』が重要」でした。

安仲 「低関与商材」における、ユーザの行動を知っていると、ここまで方針が変わるものかと思いました。

【参考】知見のない領域における仮説の出し方

今回は当社の知見・経験がそのまま活かせる領域だったので、スムーズに「購買に最も影響のあるポイント」の仮説を立てられました。ただ、もし知見のない人が仮説を立てる場合は、「カスタマージャーニーを把握し、ビジネスチャンスを考える」方法がおすすめです。

具体的には、以下の3STEPです。

STEP1)カスタマージャーニーを把握する

例:商品であるノートPCをCMで知る→インターネットで情報収集・比較→評判の確認→ECサイトや家電量販店で購買

STEP2)カスタマージャーニーの中で特に重要なポイントを把握する

例:既存顧客にヒアリングしたところ、多くのユーザが「比較サイトで口コミを見て購買を決めた」と言っていた→「評判の確認」における「比較サイトでの評判の良さ」が重要と判断

STEP3)重要なポイントの成果を最大化するにはどうするべきか?を考える。この答えがそのまま仮説となる

例:「比較サイトで比べられている項目(ランキングの項目など)」の強化に注力する

カスタマージャーニーを把握するには以下の2つの方法があります。

  • 身近なユーザにインタビューする
  • 熟練の営業担当に聞く

実行しやすく情報の信頼度も高いため、基本は身近な人に聞くのがおすすめです。特に聞いたほうがいいのは「何がきっかけでサービスを購入したか?」です。リピートした人の場合は「何がきっかけでリピートしたか?」を聞いてみてください。

2)定量アンケートの実施

垣内 仮説を設定したら、その仮説をもとに質問を作成し、Webで定量アンケートを実施しましたね。

安仲 定量アンケートでは「仮説の確認」を目的として、以下のような質問をしました。

  • キャンセル費用を負担してくれる「キャンセル費用保険」に加入したことはありますか?
  • キャンセル費用保険はどこで初めて知りましたか?
  • キャンセル費用保険に加入した理由をすべて教えて下さい(いくつでも)

※質問の一部を抜粋

垣内 定量アンケートは可能であれば「既存のお客さん」に聞くのが効果的です。顧客になるまでの過程を経験しているので、事実に基づいた信頼性の高い情報を得られますからね。 そのため既存顧客のメールアドレスリストがある場合には、メールを送って聞いてみます。ただ今回は新しい商品であり、既存顧客に聞けない状況だったので、インターネット上のリサーチサービスを利用しました。

安仲 定量アンケートで印象的だったのは「思考停止で選べる質問を用意する」ということです。質問では「感想はどれですか?以下から選んでください」などの「意見」を聞いてはいけない。思考停止で選べる「事実」を聞く質問でなければならない、と。

垣内 意見を聞いても意味がないですからね。ほとんどの人は自分の考えを言語化できません。仮に言語化したとして、その場でむりやりひねり出した答えであって、真実ではないことがほとんどです。見るべきは事実。これだけです。

3)定性デプスインタビューの実施

垣内 定量アンケートの次は、定性デプスインタビューを実施しました。定性デプスインタビューとは、いわゆる「ユーザ行動観察調査」ですね。

ユーザ行動観察調査とは

ユーザの意見ではなく、行動を観察することで、行動理由を事実データで把握できる調査手法です。ユーザ1名を、インタビュアー1名が調査し、別室モニターでクライアント社員に見学いただきます。ユーザに、普段実際に使用するデバイスで、普段どおりサービスを利用してもらいます。経験論的に3~5名の調査で行動パターンは収束していきます。

定量アンケートに回答した人の中から、過去に購入・申し込みした経験のある被験者を呼びました。

安仲 定性デプスインタビューでも「どうすれば良いと思いますか?」「何だったら買いますか?」などの意見を求めないよう、徹底していたのが印象的でした。

垣内 「あくまで事実のみを集め、意見や感想は黙殺する」という方針は、定量アンケートと同じです。ただし例外として、調査が終わってから「なぜあの時あの行動をしたんですか?」という「直前の行動の理由」だけは聞いてもOKです。直前の行動の理由くらいであれば、言語化できるので。

調査の結果は?

安仲 定量アンケートでは、コロナ禍でキャンセル保険のニーズが増大していることが確認できました。というのも、直近1年以内のキャンセル理由の半分近く(45.5%)が「緊急事態宣言、または新型コロナウイルスへの罹患」という結果です。 また、「コロナで急なキャンセルの可能性があるから、予約を渋ったことがある」という人も、30~50%発生していました。このことから、キャンセル保険のニーズはコロナ禍で増加していくことが予測できます。

垣内 「コロナ禍でキャンセル保険の需要は高まるはず」と話していたので、このあたりは予想通りでしたよね。では定性デプスインタビューの結果はいかがでしょうか?

安仲 定性デプスインタビューでは、「キャンセル保険の初回利用者のほとんどは、旅行などの予約の途中で保険の加入を勧められ、そのままの流れで加入している」ことがわかりました。

垣内 予約フォームで「オプションでキャンセル保険はどうですか?」と勧められ、「じゃあ入っておくか」と加入していた、というわけですね。特に他のキャンセル保険サービスについて調べることもなく。

安仲 はい。つまりキャンセル保険は、初回購入時には他社の商品と比較検討されていなかったんです。

垣内 おすすめされた時点で、必要な人は「あ、こんな保険があるんだ」と思考停止で申し込む。であれば「とにかく予約のタイミングでユーザにキャンセル保険を紹介して、知ってもらうこと」が、申し込み数を増やすには重要と言えそうです。

安仲 はい。なお、付帯サービスによる差別化はリピートへの影響がありそうだったので、付帯サービスを充実させていくことも引き続き検討していければと思います。

顧客を見ない新規商品開発はありえない

安仲 今回、顧客を見ずに商品開発をしていたら「差別化だけに力を入れる」など、あらぬ方向に突き進む可能性がありました。キャンセル保険においては、まずは「予約までの流れでキャンセル保険をおすすめしてもらうこと」が何より重要です。なので、まずは「いかに予約サイトとアライアンスを組んでいくか」に注力すべきでした。

垣内 商品開発において「他商品との差別化」ばかり気にする企業は多いです。しかしキャンセル保険のように比較検討されにくい商品では、一概にそうも言えないケースもあります。やはり顧客を見ずに新規商品の開発を進めるのはありえないです。デジタル活用を考える時についデジタルを起点にしがちですが、まずは顧客を起点に考えるということを、すべての企業にお伝えしていきたいですね。

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