2019.10.30

研究レポート

ローカルビジネスは、ポータルサイト・交通広告依存からの脱却が鍵。歯科医院サイトにおけるベストプラクティスの研究(1)

調査の前提

ローカルビジネスにおける自社サイトの意義

ローカルビジネスとは、地域に根ざした店舗ビジネスのことで、個人商店や個人経営の飲食店、個人塾などがローカルビジネスの代表例である。このローカルビジネスにおいて、多くのユーザーは口コミ情報などを目的にポータルサイトを利用して検討する。自社サイトを持たずとも店舗についての情報をポータルサイト経由でユーザーに伝えることができるため、あえて自社サイトを運営することの意義が見出しづらいと考える店舗経営者も少なくない。

一方で、特にローカルビジネスの中でも高単価商材を扱う場合、インターネットの影響で商圏は広がってきており、ユーザーが情報探索をネット上で行い、生活・仕事圏以外でも店舗を訪れる可能性が高くなってきている。そのため、従来の交通広告やチラシなどを中心とした集客施策ではユーザーの行動変化に対応することが難しくなってきている。

成果を上げている店舗はユーザーの比較検討段階でブランド認知を高めるために、デジタルチャネルへの投資、特に起点となる自社サイトにも投資している。ページがフォーマット化され、比較のため横並びの表現が基本となるポータルサイトと違い、独自の情報発信ができるためである。

ローカルビジネスの典型的事例である歯科医院サイトにてベストプラクティスを導き出す

今回は、ローカルビジネスの一つである「歯科医院」のサイトに着目した。歯科医院はコンビニエンスストアより数が多く、ローカルビジネスの典型事例といえる。また、マーケティングの考えが浸透していない業界であり、データを裏付けとした研究レポートを出すことに意義があると考え、今回のテーマとして選んだ。

今回のベストプラクティスを導出するにあたり、ローカルビジネスについて深い知見とノウハウを持つブランディングテクノロジー社と共同研究を行った。ブランディングテクノロジー社は歯科、建築、地域不動産などローカルビジネスに特化した集客メディアを運営し、2,000社以上とのプロジェクト実績がある。

WACULがテクノロジーとビッグデータを用いて生みだしてきた知見と、ブランディングテクノロジー社が蓄積してきたローカルビジネスへの深い理解やノウハウとを持ち寄って、ローカルビジネスにおけるデジタル活用の新たなベストプラクティス(勝ちパターン)を開発していく第一歩としたい。

調査内容

「AIアナリスト」を用い、31の歯科サイトを分析。流入元・入口ページに着目した

今回は調査のゴールを「顧客開拓に成功している歯科医院サイトはユーザーとどのように顧客接点を作っているのか」という点においた。「AIアナリスト」に登録されている31の歯科サイトについて「訪問数」、つまり集客に焦点をあてて調査を行った。

なお、本レポートでは特にユーザーがネットで活発に情報探索を行う高単価商材である「自費診療」の比率が高い医院に焦点をあて分析を進めていく。商圏規模に関しては、夜間人口200,000人規模の医院に絞った。

調査サイトの流入元と入口ページごとのセッション数を分析

解明するにあたり、対象サイトにおいて、調査期間中の累計訪問数(集客)の上位5サイトと下位5サイトを入口ページ・流入元の観点から流入構成を比較し、何が違いを生んでいるのかを分析した。なお分析を行う際、「入口ページ」については歯科医院特有の事情を考慮し、トップページ・医院紹介・医院コンセプト・情報コンテンツ・診療メニューの5つに分類した。一方で「流入元」は自然検索・有料検索・広告・外部ページ・ソーシャル・メール・その他の7つに分類し、データを抽出した(図表1)。

図表1:歯科医院サイトの流入経路の定義

調査の概要は以下の通りである。

調査ツール AIアナリスト(WACUL)
調査対象 国内の歯科サイト31件
調査時期 2018/08/01-2019/07/31

調査結果概要

I. ページ別にみた集客状況

  • 上位サイトほど、医院のTOPページ以外からの流入が多い
  • 上位サイトは診療メニューページへの流入比率が下位サイトの1.5倍
  • 上位サイトは情報コンテンツを充実化しており、下位サイトの2.8倍の流入比率

II. 流入元別にみた集客状況

  • 上位サイトは有料検索の活用で下位サイトに大きな差がある

調査結果

I. 上位サイトはコンテンツで見込み顧客との接点を創出している

1.上位サイトは下位サイトと比較して、TOPページからの流入比率が低い

まずは入口ページの流入比率を調査した。一般的に、多くのユーザーは医院名での検索等でTOPページから訪問し、医院そのもののネームバリューが集客に比例するのではないかと思われがちだ。

しかし調査の結果、TOPページからの流入比率は下位サイト平均が55.0%に対して、上位サイトの平均は28.8%であった(図表2)。上位5サイトはTOPページからの流入のみでなく、下層ページからも流入していることがわかった。

図表2:入り口ページ別の流入比率

2.上位サイトは診療メニューページへの流入が下位サイトの1.5倍

では「下層ページのどこから流入しているのか」について、続いて調査した。その結果、上位サイトは下位サイトに比べ、診療メニューからの流入比率が高いことがわかった。

数字で見ると、下位サイトでは診療メニューページからの流入比率が平均15.6%なのに対し、上位サイトでは平均24.1%となっており、約1.5倍である(図表3)。

図表3:診察メニューページへの流入比率

また、診療メニューの中でも上位サイトの場合は矯正、インプラント、ホワイトニング関連のキーワードで多くのユーザーが診療メニューページに流入していた。これらの治療法は基本的には保険が適用されない「自費治療」に該当し、治療費が1件数十万円といったように高額である。そのため、ユーザーにとっては「どのような治療オプションが存在するのか」「料金はどの程度なのか」「どういった治療プロセスなのか」といった疑問を解消しようとするニーズが生まれる。そうしたニーズにうまく答える手法として、診療メニューページの充実化は有効であると考えられる。

3.上位サイトは情報コンテンツ経由の流入が下位サイトの2.8倍

さらに上位サイトは診療メニューに加え、コラムやブログなど、医院オリジナルの情報コンテンツへの流入比率も高い。上位サイトは情報コンテンツ経由の流入比率が平均36.0%。一方で下位サイトは平均12.8%に過ぎない。上述した診療メニュー以上に、流入比率で大きな差が開いている。

図表4:情報コンテンツページへの流入比率

情報コンテンツを利用したサイト集客はいわゆる「コンテンツSEO」と呼ばれものであり、その有効性については以前のレポートにて提言した通りである。

以前のレポートにおいては、コンテンツSEOを大きく「情報ノウハウ提供型(コラムやデータレポート)」と「読み物型(ブログやニュース)」に分け、情報ノウハウ提供型のほうがCV寄与率が高いことを示した。CVについては、本調査の趣旨からは外れてしまうため詳細な言及は避けるが、歯科医院の場合に考えられるメリットとして

  • 潜在的な顧客と接点を獲得できる
  • 有益な情報を提供することで医院の信頼度が向上する

といった点が考えられる。

上位サイトは症例や治療法に関する豆知識といった「情報提供型コンテンツ」を大量かつ継続的に設置し、コンテンツSEOによる関連キーワードでの集客を実現している。以前のレポートで調査したBtoBビジネスと同じく、歯科においても専門性を生かし、医院サイトにて提供できる情報はあるはずである。

II. 上位サイトは自然検索だけでなく、有料検索(リスティング広告)でも集客している

チャネル別に見ると、上位サイトで特徴的なのは有料検索での集客である。

チャンネルごとの流入比率を示したものが図表5であるが、自然検索からの流入は上位サイト・下位サイトともに70%程度で大きな差はみられない。一方、有料検索では31サイトの平均流入比率が3.23%であるのに対し、上位サイトは平均6.4%で下位サイトは0.0%、つまり全く有料検索を運用していないに等しい。

上位サイトの場合、自然検索の流入比率69.37%に対し1割に相当する集客を有料検索で得ているということであり、下位サイトとの取り組み度合いの差が明らかとなった。

図表5:検索からの流入比率

リスティング広告については診療メニューページとの組み合わせも有効である。先の調査結果で示した通り、入口ページの中で診療メニューからの流入比率は大きいが、集客に成功している歯科サイトはユーザーの検索ニーズが高い診療名をリスティング広告出稿し、見込み顧客との接点にしている。

本調査から得られた知見

医科歯科サイトにおいて、集客に成功している優れたサイトには以下の3点から見られた。

  1. 症例や治療法関連キーワードの検索でユーザーを集客すべく、診療メニューページと情報コンテンツを充実化
  2. 自然検索で上位表示されない場合に機会損失しないよう、リスティング広告(有料検索)でも積極的に集客

本調査の提言

冒頭で述べたように、ローカルビジネスの中でも特に高単価商材を扱う場合、インターネットの影響で商圏は広がってきているため、ユーザーが情報探索をネット上で行い、生活・仕事圏以外でも店舗を訪れる可能性が高くなってきている。

そのため、従来の交通広告やチラシなどを中心とした集客施策ではユーザーの行動変化に対応することが難しくなってきているが、昔からの慣習でそこから抜け出せないケースが多い。

歯科医院分野においても同様の状況であるが、その中で集客に成功している上位サイトはユーザーの検索ニーズに対応して診療メニューページや情報コンテンツなど下層ページを充実化させ、リスティング広告も積極的に行うことで、自社サイトによる見込み顧客との顧客接点づくりに投資していた。

また、ローカルビジネスは人が評判を生むため、自社がもっている「専門領域の知見」をいかにコンテンツに落とし込むかが鍵となる。診療メニューページや情報コンテンツをその医院が持つ専門知見により充実化することは、検索ニーズ対応による流入強化だけでなく、専門性アピールによるユーザーの信頼獲得へと繋がる。

実際、ブランディングテクノロジー社が支援している事例でも、先生の専門領域を定期的に記事コンテンツ化できている医院は集客・信頼獲得に成功している。また、医科歯科ビジネスの収益性を高めるためには高単価・高利益率の自費診療比率を向上させることが重要であるが、専門性の高いコンテンツでの集客は自費診療比率を向上させることにも効果がある。収益性改善の面でも推し進めるべきである。

今回は歯科医院、特に自費診療比率が高い医院についての調査であったが、ユーザーがネット上で情報探索を行い、生活・仕事圏外から店舗を訪れるケースが増えているのは業種・商材単価を問わずローカルビジネス全般に言える傾向である。デジタルシフトによるユーザーの行動変化への的確な対応がローカルビジネス成功の鍵となる。

ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 黒澤氏 コメント

歯科医院の数はコンビニの数より多く、約69,000医院*とのデータが公開されている。

歯科医院に限らず、医療機関におけるマーケティングの必要性は近年注目を集めているが、歯科医院のマーケティングは、デジタルマーケティングの一般論で語ることが難しく、さらに知見も体系化されていないのが現状である。

ここで日本の産業構造に立ち返ってみると、日本のGDPと雇用のおよそ七割を占めるのは「サービス業」だと言われている。また、サービス業は地方経済を支える産業だ。

「歯科医院のマーケティング勝ちパターンを体系化」することにより、ローカルビジネスを営む方々に微力ながら貢献できれば幸いである。

*注:厚生労働省/平成30年5月度 医療施設動態調査