WACUL Marketing DX Days Report【Day1】メーカーにおけるデジタルマーケティングの定石

WACUL Marketing DX Days Report【Day1】メーカーにおけるデジタルマーケティングの定石

WACULテクノロジー&マーケティングラボ所長・垣内が執筆した『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』の出版記念イベント・WACUL Marketing DX Days。各業界に精通したゲストをお招きし、デジタルマーケティングの定石を4日間にわたり語り尽くしました。

当記事では、『【Day1】“メーカーにおける” デジタルマーケティングの定石』の様子をお届けします。

ビービット宮坂さんによるなめらかで鋭いファシリテーションにより、誰もが知る大手メーカー・ライオン社のバズムービー施策やオウンドメディア『Lidea(リディア)』の実態を丸裸に。ライオン大村さんからは公開ギリギリの回答をたくさんいただきました。当日の臨場感そのままにレポートいたしますので、ぜひお楽しみください。

パネリスト

大村 和顕

ライオン株式会社 ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン部長 大村 和顕

ライオン株式会社 ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン部長

大手旅行代理店、国内大手Sierを経て2006年に株式会社アイ・エム・ジェイに参画。様々なナショナルクライアントのデジタル戦略策定およびWEB・アプリケーションの開発をプロデュースする。2017年にライオン株式会社へ入社。2020年1月より各ブランド及び新規ビジネスにおけるコミュニケーションの責任者として、ビジネス開発センター エクスペリエンスデザインを率いている。

垣内 勇威

株式会社WACUL 取締役CIO 垣内 勇威

株式会社WACUL 取締役CIO

東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケティングのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」を立ち上げ。2019年に産学連携型の研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」を設立し、所長に就任。現在、 研究所所長および取締役CIO(Cheif Incubation Officer)として、新規事業や新機能の企画・開発およびDXコンサルティング、大企業とのPoCなど、社内外問わず長期目線での事業開発の責任者を務める。

モデレーター

宮坂 祐

株式会社ビービット 執行役員 / 合同会社宮坂祐事務所 代表 宮坂祐

株式会社ビービット 執行役員 / 合同会社宮坂祐事務所 代表

一橋大学法学部卒業後、2002年にビービット入社。コンサルタントとして、メディア、金融、通信、メーカー等のウェブ戦略立案/成果向上プロジェクトを数多く実施。

2013年からエバンジェリストとして、UX/DXをテーマに多くのマーケティングイベントに登壇。2016年に金融財政事情研究会より「顧客を観よ~金融デジタルマーケティングの新標準」を刊行。ビジネススクールのグロービスでクリティカルシンキングなど思考系クラスの講師を務める。

はじめに

宮坂垣内さんとはお付き合いが古く、彼が新卒でビービットに入社したころの上司が私でした。現在はWACUL研究所の顧問を任せてもらっており、そのご縁で今日はこの場にモデレーターとして参加しています。

ライオンの大村さんも実は昔からの知り合いなんです。大村さんの前職アイ・エム・ジェイとビービットはコンペでぶつかることもあればタッグを組んでお客様を支援することもあるような関係で、その頃に出会いました。ありがたいことに今もライオンさんの案件をご紹介いただき、一緒にお仕事をしています。

さて、今日は「デジタルの限界を理解する」「バズワードに踊らされない成果の出し方」「組織をどう動かしていくのか」という3つのテーマを用意しました。

3つのテーマ「デジタルの限界を理解する」「バズワードに踊らされない成果の出し方」「組織をどう動かしていくのか」

私から大村さんと垣内さんに質問を投げかけながら、メーカーの生々しい実態をかなり突っ込んで聞いていきます。大村さんが口を滑らせ、数百名も聞いている場では決して言えないようなことを言ってしまうよう上手くしむけていこうと思いますので、よろしくお願いします(笑)。

それでは、さっそく本題に入っていきましょう。

1. デジタルの限界を理解する

1. デジタルの限界を理解する

宮坂最初のテーマは「デジタルの限界を理解する」。垣内さんって、いわゆるデジタルマーケティングの本流にいて、『AIアナリスト』というデジデジしたツールを提供していますよね。大村さんも、アイ・エム・ジェイでずっとデジタルマーケティングをやっていて、「デジタルに強いから」という理由でライオンからヘッドハントされていると思います。

でもおもしろいことに、二人とも共通していつも「デジタルには限界がある」と話している。特に垣内さんなんて「デジタルは万能じゃない!」とすごく強調するじゃないですか。ここまで主張するに至った想いや背景を教えてくれますか?

垣内私自身デジタルでめちゃめちゃ失敗してきたからですね。15年前、私がちょうど新卒のときって「デジタルってなんでもできそう!」と夢があったんですよ。でもやればやるほどできないことがめちゃめちゃ多いとわかったので、「夢なんてないよ!」って言ってやりたいんです。

宮坂この話をする時にいつも「説得力」「爆発力」を軸にとった図を出していますよね。ちょっと説明してもらえますか。

マーケティングにおける「デジタル」は中途半端な媒体である

垣内なにか商品を売ろうと思うとお客様を説得しないといけないわけですが、当然人間が説得したほうが楽だし強いですよね。人間だったら小一時間お客様を囲い込むこともできますけど、デジタルはセルフサービスチャネル。興味がなかったら今すぐこのZoomを閉じてセミナーとおさらばすることもできますし、説得なんてできないんです。

また、瞬間風速的に多くの人に接触するのはやっぱりTVCMが圧倒的に強い。つまりデジタルはどっちつかずの中途半端な場所にあるんだよ、だから夢を見ちゃダメだよね、ということです。

宮坂「これはデジタルに夢を見ているな」と最近感じたダメな例はありますか?

垣内15年ずっと聞き続けている言葉は「態度変容」ですね。デジタルで態度変容を起こすなんて、ウソつけよできるわけないじゃん、と。「マーケティングオートメーションで態度変容を起こすシナリオを作りました」とか、もう言ってて恥ずかしくなっちゃいますね(笑)。

一同(笑)

宮坂私の場合、まぁデジタルには限りませんが「カスタマージャーニーを作っていろんな顧客接点を重ねながら態度変容を促しましょう」……みたいなことを普通に言いかねないんですが、「態度変容」という言葉はなにがダメなんでしょうか?

垣内“デジタルだけで”っていうのがやっぱり難しいですよね。態度変容そのものを否定しているわけではないのでカスタマージャーニー上にはあっていいと思うんですけど、ちょっとやそっとデジタルのコンテンツを盛ったりデザインを頑張ったりするだけで態度変容を起こせると思ったら大間違いだよ、っていう話です。Webサイトなんて直帰率50%・平均滞在時間1分なんて普通なんで、この状況のなかで態度変容なんておこがましいですよね。

宮坂大村さんも近しい考えをお持ちかと思うんですが、いかがでしょう?

大村私も基本的にはデジタルが万能だとは思ってないですね。我々の商品は店舗で買っていただくのがメインで、ほとんどの商品はダイレクトな購買チャネルをもっていません。ハミガキやハブラシといった低関与商品って、やっぱり店頭で思い出してもらうこと、つまりどれだけ純粋想起や助成想起が獲得できているのかが非常に重要です。それらを獲得するために、マスとデジタルを最適に組み合わせてコミュニケーションをとるよう意識しています。

宮坂言える範囲でいいんですが、デジタルの使いどころって具体的にどういう感じなんでしょう?さっきの垣内さんの話も踏まえると、純粋想起の獲得にはやっぱりデジタルよりTVCMがいいじゃないですか。

大村実は、純粋想起獲得のために一部デジタルを活用するチャレンジをしています。

宮坂え!それはちょっと詳しく教えてほしいです。

大村1つ例を挙げるとですね……『トップ クリアリキッド抗菌』という、ニオイに強い洗濯洗剤でやったコミュニケーションなんですが、数年ぶりに小堺一機さんとタッグを組ませていただきまして。

宮坂「なにがでるかな♪ なにがでるかな♪ 」ってやつ!?

大村そうです、そのTV番組です!「ライオン」と言うとおそらく小堺一機さんとライオンちゃんを思い浮かべる方が結構いらっしゃると思うんですが、その認知を活用しました。……あの、ゆるキャラって着ぐるみがものすごく臭いのご存知でした?なかなか洗えないからすごく臭うわけですよ。

一同(笑)

大村着ていた衣類を洗濯して部屋干しすると、洗っても洗っても生乾きの変な臭いがするときってありますよね。我々はそれを「ゾンビ臭」と名付けまして、ゾンビ臭のついた衣類やゆるキャラたちを小堺さんとライオンちゃんが除菌していく……みたいな動画を作りました。いわゆるバズムービーです。

ライオンちゃん&小堺一機、名物コンビが復活!つば九郎、せんとくんら有名キャラと共に壮絶な戦いに挑む!  スペシャルWEBムービー「HAVE A NICE DAY」〜ゾンビ臭よ、ごきげんよう〜

当然作っただけではみなさんに見てもらえないので、裏で細かくストーリー設計してTwitterを活用したPRを組んでいました。「臭いを退治する洗剤=ライオン」というイメージを植え付ける、「ライオンがなんかおもしろいことやっているな」と印象付けて店頭で思い出してもらう、「ゾンビ臭」というキーワードで助成想起を狙う、そういったコミュニケーションでしたね。

宮坂1つ疑問なんですが、TVCMで「ゾンビ臭」って叫ばせてもいいはずなのにあえてデジタルに寄せたのはどういう背景があったのでしょうか?予算の問題?

大村まさに予算の問題ですね。TVCMで流すとなると、Web上で流すためにかかるお金と当然桁ちがいなので(笑)。

宮坂おそらく「ゾンビ臭」というキーワードや着ぐるみの臭いに着目したコンテンツの妙と、Twitterを絡めたあたりに成功の要因があったかと思いますが、その辺どうでしょう。

大村まさにそうですね。Twitterでどのタイミングでどういう情報を出して……という情報出しの設計に一番気をつかいました。結果的にはこのキャンペーンでシェアの拡大に成功しました。

宮坂これは、垣内さん的にはいいデジタルの使い方だと思います?

垣内おもしろいですね。結局コンテンツ勝負だなと思いました。おそらく担当者がイケてると今みたいな尖ったコンテンツになると思うんですが、世の中には無難な動画もたくさんありますからね。

ライオンさんぐらいの会社だと尖ったコンテンツ作れば「それはさすがに出せないんじゃない」みたいな抵抗勢力が起きると思うんですが、どうやって折り合いをつけているんですか?

大村これは答えにくい質問ですね(笑)。やっぱり、このコンテンツがこういう形で世の中に出ていくとこういう効果があるんです!っていうのをきちんと関係者全員に誠心誠意説明しにいきます。自分たちがおもしろいことや目立つことをやりたいからやっているのではなくて、消費者にとって意味があって売上につながると思っているからこれをやるんだと、ロジックをきちんと説明して納得してもらえるようにする。まぁこれしかないですよね。

宮坂その時に結構大事になってくるのがKPI設定ですよね。特にライオンさんってBtoBtoCモデルじゃないですか。最終的に売れたか売れてないかはもちろんPOSデータ上わかりますが、誰がどう買っているかなんてわからない。そのなかでさっきのデジタル施策の費用対効果ってどう証明するのでしょうか?

大村おそらく他のメーカーさんも同じだと思っているんですが、施策の目的によって変えています。認知目的だったらクリック率や動画再生率、商品理解目的だったら完全視聴率、興味喚起目的だったらキャンペーン参加率やソーシャルアクションとか。

宮坂いま挙げたものってどれもとりうる指標ですが、たとえば再生数が何万回だからといって、経営陣がすごいと言うのでしょうか。TVだったら3,000万人が同時に見るけど、YouTubeだったらどんなに流れたって100万回みたいな世界。デジタルがビジネスにとって意味があるっていうことを、ライオンさんではどう見せていますか?ダイレクトだったら簡単ですよね、ECで売れたって言えばいいですから。

大村もちろん各ECチャネルとデータをつなぎ込んで検証する場合もありますよ。ただやっぱりキャンペーン動画を見てその場ですぐ購入する商品ではないので、最初のお話のとおり純粋想起の獲得は大きな指標として捉えています。

宮坂垣内さんって、ライオンさんのように低関与商材でデータはとりきれません、みたいな場合にどうKPI設計して成果を証明しているんですか?

垣内純粋想起が目的なのであれば、TVCMの場合も多分そうやって成果を見ていると思いますが、一つはアンケートですね。あとはWebサイトに何人きているのか。これはどれだけ認知できたかがわかる一つの真実ですよね。その両方で見ていけばいいのかなと思います。

宮坂なるほど。お、参加者からちょっとおもしろい質問が飛んできましたよ。「ムービー拝見しました。ターゲットはどう設定されているのでしょうか?おもしろおかしく工夫されておりますが、主婦層にウケるか少々疑問でした」って(笑)。

大村……尖った内容で興味を引く以上やっぱり内容に対して否定的な意見はあって、それは甘んじて受け入れます。

垣内僕の本と同じですね。尖ったことを書くと批判がいっぱい集まるっていう(笑)。

大村しょうがないですよね。ただ私はこのコンテンツでライオンと『トップ クリアリキッド抗菌』の名前が頭に残り購買につながると仮説をもち信じて実行しています。もちろん仮説が違うと証明されれば変えていくつもりです。

宮坂ちょっと話を戻しましょう。大村さんって2017年にライオンに招かれたじゃないですか。多分僕もそのころから「なんとなくTVCMの効果が落ちている気がするからデジタルに代替したい。でもTVCMがどれくらい効いていてデジタルがどれくらい効くのかわからない」みたいな相談を大手クライアントから受けるようになったんですよ。

で、これは僕の推測ですけど、ライオンさんもきっとTVCMからデジタルへのシフトを狙って大村さんみたいな特殊人材を呼んだのだろうなと。実際のところどうなんでしょう?

大村私がライオンに呼ばれた理由は「マス一辺倒のコミュニケーションからの脱却」が一番大きいとは思うんですけれど、「ただデジタルを活用したい」というよりは、「デジタルの力でユーザーのジャーニーをきちんと把握して、ユーザーにとって最適なコミュニケーション手段で情報伝達をしたい」という軸なんですよね。

宮坂なるほど。マスorデジタルじゃなくて、ユーザーをちゃんと捉えることを非常に重視されていらっしゃると。

大村まさにそうです。

宮坂すばらしいですね。いまもう一つ参加者から質問がきました。「店頭で純粋想起してもらうためにはどんなデジタルマーケティングが必要でしょうか?」って。

大村これは垣内さんの本に答えが書いてありましたよ。

宮坂なんと言ってましたっけ?

大村ひたすらサービス名を連呼する(笑)。

垣内最近BtoB SaaSのタクシー広告多いじゃないですか。どことは言えないですけど、連呼する/しないで全然成果がちがうっていいますしね。

大村やはりある一定の効果はあると思います。忙しい時に連呼されても誰も聞かないけど、情報を受け入れる体勢になっている時に連呼されると頭に残る可能性も高いですしね。

宮坂連呼するのはダサいからもっとデジタルを巧妙に活用して~みたいなのはまぁある種の幻想で。古き良きやり方を残しつつそこにどうデジタル特性を加えていくのかが大事なんでしょうね。ユーザーのジャーニーを捉えて、情報が受け入れられるタイミングかどうか、TVCMがいいのかTwitterがいいのかを再設計していく。

大村「4Rコミュニケーション」はまさにデジタルの力を使って分析していますよ。

宮坂Right Target、Right Timing、Right Channel、Right Messageですね。これ、某社が自社製品を売るために作ったパスワードな気がしなくもないですが(笑)、言うは易く行うは難しですよね。4Rをうまくやるコツってありますか?

垣内顧客の解像度を上げるしかないと思いますね。ライオンさんみたいなメーカーだと店舗で売れちゃうので消費者と接点がある人がそんなにいないじゃないですか。意図的にお客様に会うとか、どういう風に商品が使われているのかを見にいくことが大事なのかなと思います。

宮坂OK、バズワードっぽいものも出たところで2つ目のテーマにいきましょうか。

2. バズワードに踊らされない成果の出し方

2. バズワードに踊らされない成果の出し方

宮坂ライオンさんは『Lidea(リディア)』というメディアでコンテンツマーケティングをやっていますが、コンテンツマーケティングってともするとパスワード的に使われがちですよね。垣内さんなんて「コンテンツマーケティング、けっ」みたいなこと言いそうじゃないですか。

垣内ははは(笑)。コンテンツマーケティング自体は意味ありますが、無難で誰も見ない動画とかポエムが連呼される月10PVの記事とか、そういうのは意味がないと思いますね。

宮坂世間的に「Lidea」はコンテンツマーケティングの成功事例として紹介されていいますが、実際どうなんでしょう?そういえば大村さん入社後にはDMP(データマネジメントプラットフォーム)を整備していましたよね。

DMP(データマネジメントプラットフォーム)を整備

大村そうです。「Lidea」自体もデータを取得して分析するためのプラットフォームとして整備されていなかったので、昨年リニューアルしています。

宮坂僕としてはコンテンツマーケティングもDMPもバズワードちっくだと思っていて。 DMPを整備します、その上でデータを活用したコンテンツマーケティングを実施します、顧客への寄り添い力を深めてエンゲージメントを高めるんです!みたいな。あ、今可能な限りバズってみました(笑)。

一同(笑)

宮坂怪しいでしょ?でもこれをみんな普通に言うわけじゃないですか。

大村たしかに(笑)。

宮坂「Lidea」を作った意図は、ダイレクトな顧客接点をもたないライオンさんがここで会員を獲得しコミュニケーションの入り口をもつことと、お役立ちコンテンツを発信して日々の生活の中でライオン製品に触れる機会を作っていくことだと推察しています。

「Lidea」は大村さんの前任者時代からよく知っているんですが、本当にそんなに都合よくいくの?とつねに疑念をもって見てきました。これだけ社員を巻き込んでコンテンツ作らせてコストをかける意味ってあるんですか?意味があるんだとしたら、意味あるものにたらしめる工夫にはどんなものがありますか?

大村ある一定の成果は出ていると思います。ただし「困りごとがあったときに検索してサイトを見つけてもらう」という構造だとどうしてもSEOを頼らざるを得ない。去年Googleのアルゴリズムアップデートでとんでもない目にあいまして、トップに表示されていたキーワードが20P目までガタ落ちして全くアクセスされなくなる事態がおきたんですよ。このままSEOに依存し続けるとマズいということで、今はおもしろ系のコンテンツも作ってSNSでの発信も積極的におこなっています。

あとは、我々はDMPを「ユーザーインサイトの深堀り」と「マーケティングストーリーの検証」という二つの軸で使っていまして、こういう人たちにこういうメッセージを届ければ……あのすいません、「態度変容」が起きるという……(苦笑)

垣内遠慮なく使ってください(笑)。

大村態度変容が起きる、つまり上手くいきそうなコミュニケーションの芽を見つけた時は、そのエッセンスをCMにも入れ込んだりしています。

宮坂なるほど、実験場ってことですね。

大村まさにそうなんですよ。ユーザーに本当に刺さるコミュニケーションの芽をここで探しているっていう。

垣内お話しできる範囲で構わないんですが、具体的にどうアクションに落とすんでしょうか?たとえば乾燥肌についての記事が、ボリュームは少ないけどめちゃくちゃ購買に貢献しているとして、それをCMに入れたときに本当に成果でるのかな?と。

大村あくまでデータだけで何かを判断することはなくて、データを人間が読み解くなかで昇華していくようなイメージです。たとえば、記事を読んだあとにその人がどんな感想をソーシャルでつぶやくのかまで見て、その感想の理由はアンケートを使って聞いて、本当に態度変容が起きているのかを見ていきます。

宮坂データが溜まってそれがオートマチックに分析されてユーザーインサイトがポンと見えてくる、みたいな感じだと怪しくてウソっぽいですが、もっと泥臭い話ってことなんでしょうか。

大村そうです!泥臭いですよ!!!

宮坂主たる目的は顧客インサイトの深堀りとマーケティングストーリーの検証。ただそれをやるためにはそもそも意味のあるコンテンツを提供しないとお客様が寄り付いてくれないから、最近だとSEOだけでなくSNSからの流入も模索しながらコンテンツを作っていると。それが積み重なれば結果お客様のエンゲージにもつながるから効果は当然あるよねっていう、そういう風に僕は理解しました。

大村まさにおっしゃるとおりです。

垣内これは僕の考えですけど、「Lidea」にわざわざ来る人って相当悩みが深いか相当ライオンさんが好きかのどちらかだと思うんですよ。そういう人たちが仮に月100万人くるようなメディアに育っているとしたら、それってTVCMで得られる1,000万人の接点とは比較してはいけないですよね。デジタルの力によってそういった接点を自社でもてるようになったことは、すごく価値なんだろうなと思います。

宮坂先に進みましょうか。最後のトピック。

3. 組織をどう動かしていくのか

3. 組織をどう動かしていくのか

宮坂垣内さんは著書『デジタルマーケティングの定石』に持っている知見を洗いざらい整理してまとめていましたよね。まずは定石をやって80点とりなさいよっていうことなんですが、定石を知ったからといって本当にそんなに組織は変わるのでしょうか?垣内さん、あの本読んだからといってみんなであれ通りにやってくれるとは思っていないですよね?

垣内全然思ってないですよ。ずっとお客様の組織に悩まされてきた15年でした。デジタルマーケティングの答えなんて昔から変わらないし、なにをすべきかなんてつねにお伝えしているけれども、組織はなかなか動かない。たとえばMA導入しましょうと理想の絵は描けても、そのためには営業や商品開発の人を巻きこまなくちゃいけなくて、そこで頓挫してしまう。

あの本だけで組織は動かせるとは思っていないけれど、ただ、ああやって言い切って本にすることで「これが理想形なんだ」と思ってくれる人が同じ組織内に1人でも2人でも現れてくれば、なんとか変われるかもしれない……という願いを込めて書きました。あの本がスタート地点で、そこから組織調整が始まるものだと思っています。

宮坂最近僕は「Knowing-Doing Gap」という言葉を使っているんですけど、知っていることとできることの間には必ずギャップがありますよね。大村さんみたいに組織を動かせる立場にいる人ならいいですが、ほとんどの人は「そうなんだよね〜」って思いながら、でも上司や横の部署とのしがらみがあって結局組織を動かせず現実に愕然とする。その人たちに対する処方箋はありますか?

垣内3つあると思っています。1つは、小さくてもいいので成功事例を作る。あの本にも書いている「LPのファーストビューにフォーム出す」みたいな施策をまずやって成果を出せば、社内を動かしやすくなる可能性があります。

2つめは、無駄な仕事をやめる。メンバーからはどうしてもやめづらいので、あの本を上司に読ませる。それで動いてくれるかどうかですね。

最後は、顧客を見る。 お客様が商品やWebサイトを使っている時に明らかに不快な思いをしているのを目の当たりにしたら、日本のビジネスパーソンはみんな真面目なので解決したくなると思うんですよね。なので顧客に言わせるっていうのは大事です。

宮坂なるほど。実際に社内で動かしている立場の大村さんはどうですか?大村さんってやっぱり外様じゃないですか。外様なりの組織の変え方って、特に事業会社にいらっしゃる方のヒントになるんじゃないかと思います。

大村ライオンに入社して一番衝撃だったのは、私にとっては当たり前のことが、「過去にああいうことがあったからこれはうちではやっちゃダメ」と言われたことなんですよ。「ちょっと待ってください、その状況とはあまり類似しないし今はもう時代も変わっていて……」と説明してみると、わりとすんなり話は通る。少し背中押してあげる、一緒に一歩踏み出してあげることが大切だと思います。

宮坂組織内で形作られてしまった暗黙の前提とか、本当は制約じゃないのに制約っぽくなっちゃっているものに対して、世間だとこうですよ、顧客はこう思っていますよと教えてあげて、踏み出すのが怖い最初の一歩を一緒に踏み出してあげて、小さい成功を成功として演出する、そういうことが大事なのかなと理解しました。

垣内鮮やかなまとめ、さすがグロービズの貴公子ですね(笑)。

宮坂うるさい(笑)。大村さんって、すごく物腰柔らかくて人の懐に入り込むタイプだと思うんですけど、最初は「なんかデジタルって言っている口ひげ生やした詐欺師っぽい人がいきなりやってきた」……みたいな感じだったと思うんですよ。

大村そうですね(笑)。取締役レイヤーに採用されていたこともあり、現場からすると「なんだこいつ」という目で見られていたのは間違いないです。今はもう「15年ぐらいライオンにいる感じがするよね」って言ってもらっていますけど(笑)。

宮坂それキャラの問題もあると思いますが、なにか戦略的にやったことはあるんですか?

大村新しいコミュニティにジョインする時に限らず、人生においてつねにこのスタンスをとっているつもりなんですけど、やっぱりまずは「自分のやりたいことを捨てる、捨てたように見せる」ってことですね。自分のやりたいことばかりを主張していたら誰も意見なんて聞いてくれない。会社にどれだけ利益貢献できているのか、お客様にどれだけの最高の顧客体験を提供できるのか、私を含め従業員がどれだけこの会社で楽しく働けているか。この3つをとにかく大事にして、そのなかで自分のやりたいことに似通ったものが出てきたら紛れ込ませてやっちゃう、みたいな考え方ですね。

宮坂めっちゃいい話じゃないですか。会社の利益、お客様の便益、従業員のハピネス。

大村誰しも反論できないような正論を真摯に語って行動で見せるしか、こんな外様の怪しい奴が信頼される方法はないと思っています。

質疑応答コーナー

宮坂ここから拾いきれていない質問に少し答えましょうか。「デジタルではITリテラシーの高い方しか反応が取れないイメージですが、主に地方のTV・雑誌系主体の方への訴求方法は、やはりオーセンティックスタイルが有効とお考えでしょうか?」……つまりライオンのお客様っておじいちゃんおばあちゃんとかわりとITリテラシーの高くない人たちが多いように思いますが、そこは従来型のものをやっていくべきかどうかという質問。これはやりますよね?

大村そうですね。我々は地方テレビ局とタイアップして、現地の人に出てもらう生コマーシャルをものすごい数打っています。当然オーセンティックスタイルできちんとやっていかないとダメなところですね。

宮坂最後にもう1つ、「モノからコトビジネスと言われる時代において、モノを作っているライオンさんとして、どうやってコトビジネスを行うのでしょうか?事例があったら合わせて教えてください」。

……これ、たとえば僕もちょっと関わった「IoT歯ブラシ」はいい事例ですよね。小さいお子さんが歯を磨くときにどの歯がどれだけ磨けたかデータ化できるというソリューションで、お母さんと子どもの歯磨きタイムがもっと楽でハッピーなものになる、みたいなサービスです。単におもしろおかしいサービスを作るのではなくて、子どもがむし歯にならないよう継続的に支援するためにIoT技術を活用している。ライオンさんでは既にこういうサービスが始まっているのでなにかヒントになれば。

大村お客様がわざわざ時間を割いてくださるようなサービスをどれだけ提供できるか。我々もそこにかかっていると思っています。

宮坂……今日いろんなお話があったんですけど、大村さん垣内さんの話に共通してあるのは「顧客価値」。デジタルorマスっていう風に考えるんじゃなくて、顧客のジャーニーに対してなにができるかを考えていくべきですし、そうすると必然的にバズワードには踊らされなくなってくる。組織を動かすということに対しても、お客様を知ればみなおのずとその役に立ちたいっていう動きが加速されてくるよと。……そんなまとめでしょうか?

垣内100点満点のまとめをありがとうございました(笑)。

宮坂ちょうど時間がきたのでここまでですね。本当にありがとうございました!

【Day1サマリ】メーカーにおけるデジタルマーケティングの定石

1.デジタルの限界を理解する

  • デジタルは人間ほど説得力がなくTVCMほど爆発力のない中途半端な存在
  • デジタルコンテンツやWebサイトデザインをちょっと頑張ったぐらいでユーザーの態度変容は起こせない
  • 尖ったコンテンツ制作とユーザーのジャーニーにあったストーリー設計によってデジタルで純粋想起を獲得できた事例あり
  • 純粋想起してもらうために有効なデジタルマーケティングの1つは「サービス名の連呼」

2.バズワードに踊らされない成果の出し方

  • 誰も見ない動画やポエム記事はコンテンツマーケティングではない
  • オウンドメディアは「ユーザーインサイトの深堀りやマーケティングストーリーの検証の実験場」にもなり得る

3.組織をどう動かしていくのか

  • 小さくてもいいので成功事例を作る、無駄な仕事をやめる、顧客を見る
  • 会社の利益・お客様の便益・従業員のハピネスという正論を真摯に語り行動を見せることで社内の信頼を獲得する

総括

  • デジタルorマスという思考ではなく、ユーザーのジャーニーを捉え最適なコミュニケーションと価値提供を心がけよう