2022.04.07

研究レポート

BtoB SaaSのデジタルマーケティング評価レポート 〜 上場企業でも行動量不足が明らかに

BtoB SaaSを提供する新規上場企業15社のデジタルマーケティングの実施状況を調査したところ、Web広告・SEO・セミナーをもれなく実施しているのは15社中たったの2社だった。細かなサイト改善に注力する前に、まずはチャネルを増やしたほうがコンバージョンの伸びしろがあると言えるだろう。

調査に至った背景

“デジタルマーケティングの定石” はどれほど実施されているのか?

過去の研究レポート「BtoBにおけるランディングページ(LP)のベストプラクティスに関する調査」において、ファーストビュー完結型のLPはCV率を1.64倍引き上げることをデータから提言した。弊社はその他にも書籍やブログなどを通じて「BtoBマーケティングの勝ちパターン」を多数公開しているが、いったいこれらの定石はどれほど実行されているのだろうか。

そこで今回、2021年にマザーズへ上場したBtoB SaaS企業を対象に、弊社が保有するデジタルマーケティングの勝ちパターンがどれほど実施されているのか調査をおこなった。理想と実態の乖離をあぶり出すことで、まず取り組むべき一手を改めて提言する。

BtoB SaaSのデジタルマーケティングの勝ちパターン

はじめに、CVに至るまでにユーザーがどのような行動をとるのかを整理しながら、BtoB SaaSのデジタルマーケティングの勝ちパターンを紹介する。

※今回は「主に中小企業をターゲットとするBtoB SaaS」を前提に話を進める。大手企業のみをターゲットとするSaaS、あるいは工業用部品などの専門商品を販売するBtoBの場合、これから紹介するユーザー行動や勝ちパターンは当てはまらないためご注意いただきたい。

参考:18種類のビジネスモデルにおける当研究レポートの対象範囲

ニーズ発生前

ニーズが発生する前、ユーザーは受動的に情報を摂取している。FacebookやTwitterのタイムライン、専門媒体や日経新聞のニュース記事、社内で共有されるお役立ちブログなどから、自分の仕事に関係あるものだけをチェックする。

このフェーズでベンダーがおこなうべきは、自社が持っている「情報資産」を惜しみなく公開し、リードを獲得することだ。BtoB SaaSの場合、ユーザーはベンダーほどの専門知識を持っていない。そのため魅力的な「情報資産」を公開すれば、見返りとしてメールアドレスを提供してもらいやすいのだ。

それにいつニーズが発生するかわからないBtoB SaaSにおいては、リード獲得が肝となる。メルマガを定期配信してサービス名を連呼すれば、いざニーズが発生したときに思い出してもらえる確率が上がる。また、マーケティングオートメーションツール(MA)を活用すれば、ニーズの発生を検知してこちらからインサイドセールスをかけることも可能だ。

Facebook広告を出稿してセミナー予約やホワイトペーパーダウンロードにつなげる、お役立ちブログを定期的に公開してメルマガ登録してもらうなど、積極的にリードを獲得しよう。

ニーズ発生後

いざニーズが発生した場合、ユーザーは自社の要件を整理し、複数のベンダーに問い合わせて比較表を作り、稟議にかけなければならない。

ツールの専門家ではないユーザーが、Web上の情報だけでピンポイントにベンダーを選定するのは不可能だ。自社の要件に応える機能がきちんと揃っているのか、初期費用やオプション込みで結局いくらかかるのか、「手っ取り早く営業担当から話を聞きたい」とみなが思うだろう。

このとき、事前にサービス名を認知されていれば真っ先に問い合わせ候補に入れる。その他は「〇〇システム 比較」といった一般ワードで検索したときに名前が挙がる良さそうな企業、そのツールに詳しい友人から紹介された企業だけが勝ち残れる。

それぞれ指名検索してサービスサイトをチェックした結果、おおよそ自社の要件に合いそう、信頼できそうだと判断すればお問い合わせへ直行だ。こうして複数社の営業を受けて比較検討したのち、最終的に導入するSaaSを決定する。

ここまでの話を踏まえると、BtoB SaaSのデジタルマーケティングの勝ちパターンは「ニーズ発生時にサービス名が想起されるよう、事前に認知をとる ≒ リードを獲得し継続的に接点を持ち続ける」「一般ワードで検索上位をとる」「サービスサイトでCVへ直行させる」ことである。

図解

評価項目

上記の勝ちパターンを評価項目へ落とし込み、2021年にマザーズへ上場したBtoB SaaS企業15社(※)のデジタルマーケティング実施状況を100点満点で採点した。評価は2022年2月20日、PCから閲覧して目視でチェックをおこなっている。

具体的にどのような項目で評価をおこなったのか、施策別に紹介する。

※2021年マザーズ上場の情報・通信業から受託開発やコンサルティング事業を除くBtoB向け製品提供企業

※評価の都合上、今回はWeb上の情報で実施状況が判別できる施策に絞って調査をおこなった。BtoBマーケティングにはメール配信や営業連携など、外からは見えないが重要なポイントが他にも多く存在する。より詳細を知りたい方は書籍「デジタルマーケティングの定石」の「Chapter9 【Web to 営業担当型】BtoBで営業につなぐビジネスの型>一般ビジネスパーソン向けのBtoB商材」の章も参考にしていただきたい。

Web広告

Web広告は、お金さえ払えば確実に、かつ速やかにターゲットへリーチできるため有効だ。特に一般ワードにおいて検索上位を狙うためには、リスティング広告の出稿はマストである。また、リード獲得の手段としてホワイトペーパーダウンロード用のLPを用意し、Facebook広告を配信するのもおすすめだ。

今回の調査においては、継続的に出稿している ≒ Web広告で費用対効果が出ているとみなして評価をおこなっている。

また、CV率を最大化するためにはLPのファーストビューでCVへ直行させることが欠かせない。※詳細は「サービスサイト」にて後述

評価項目

  • Web広告を継続的に出稿している
  • ホワイトペーパーダウンロード用のLPでも広告も出稿している
  • LPのファーストビューにフォームが露出している

コンテンツSEO

BtoBマーケティングとブログは非常に相性がいい。なぜなら検索キーワードがニッチなため検索上位を狙いやすく、かつ顧客単価が高いためブログの立ち上げに投資しやすいからだ。ドメインを強くするには100記事程度必要だが、本気でBtoBのデジタルマーケティングに取り組むなら、半永久的に集客できる装置となるブログは必須施策といえるだろう。

しかしながら、手段が先行しているせいか、ブログを運営しているのにまったく検索キーワードを狙っていない、記事内にCV動線がないケースが不思議と存在する。これではまるでブログのメリットを活かせない。SNSで集客できているケースもゼロではないが、非常に属人的でストック性が低い。確実に成果を出したいのなら検索流入を増やし、毎回サボらず情報資産を提示してユーザをCVへと導こう。

評価項目

  • 100記事以上コンテンツがある
  • 検索キーワードを狙った記事をアップしている
  • 記事内にCV動線がある

セミナー

セミナーは初回リード獲得につながるのはもちろんのこと、一度獲得したリードを掘り起こすコンテンツとしてもフル活用できる。3分で即離脱が当たり前のWebにおいてはなかなか読んでもらえない商品情報も、セミナーの合間であれば聞いてもらえる確率が大幅に上がる。サービス理解を深めてもらえる大チャンスだ。

「共催話が持ち上がったから開催する」といった場当たり的な運営ではなく、定期的に自社商品に直結するセミナーを実施しよう。

評価項目

  • 商品紹介セミナーを定期開催している

サービスサイト

いざニーズが発生した際の受け皿となるサービスサイトにおいて、最優先でやるべきはCVへ直行させることだ。もっともCV率が上がるのはファーストビューにフォームを露出させるパターンである。せっかちなユーザ向けに電話番号も載せておくといいだろう。

例:「AIアナリスト」サービスサイト>トップ

例:「AIアナリスト」サービスサイト>トップ
  • ファーストビュー右側でのフォーム露出

その他にも、過去の研究レポートで明らかにしたとおり、CVボタンの文言を補完する、文脈に合わせた文言へ変更することでもCV率は改善する。

例:「AIアナリスト」サービスサイト>機能紹介

例:「AIアナリスト」サービスサイト>機能紹介
  • 「5分で〜」「(無料)」と補完する
  • 機能紹介ページにつき「機能が分かる」と文脈を合わせる

問い合わせるかどうかまだ確定していないユーザ向けに「資料請求」というハードル低めのCVポイントを用意しておくのも有効だ。

実際に各社のサービスサイトを見てみると、「お問い合わせ一択」のケースは少なくない。また、ファーストビューにCVボタンがない企業はさすがにゼロだったが、「情報量が多すぎる」「ポエムのようなコンセプト文がデカデカと書いてある」せいで、どんなツールなのかまったくわからないサイトはいまだに散見された。

評価項目

  • ファーストビューの訴求で誰もがどんなツールか理解できる
  • ファーストビューにフォームが露出している
  • ファーストビューに電話番号の記載がある
  • CVの障壁が下げてある

採点結果

2021年にマザーズへ上場したBtoB SaaS企業15社の採点結果は以下のとおりだ。

なお、15社に含めていないが、弊社WACULも対象条件に合致するため採点したところ85点という結果だった。ベストプラクティスを提言する立場であるにもかかわらず100点を逃すという不甲斐ない結果であり、改善を進めている。

2021年マザーズへ上場・BtoB SaaSランキング

平均点は17.2とかなり低い結果となった。その原因は、そもそも各施策をまったく実施していない企業が多かったからだ。それぞれの実施率はWeb広告60%・コンテンツSEO40%・商品紹介セミナー27%に留まる。すべて実施している企業は15社のうちたったの2社しかなく、1位と2位にランクインした。

その傍ら、テレビCMやタクシーCM、タレント起用といった派手でお金のかかる施策を打っている企業は15社中3社存在した。いずれも3位以下の企業であり、予算と時間のかけ先を見直す必要があるだろう。

また、「ファーストビューを何度見てもどんなツールかわからない」「CVポイントがお問い合わせしかない」など、せっかくのサイト訪問者を取りこぼしているサイトは減点対象としていたため、総合点がマイナスに触れている企業も見受けられた。

最後に、すべての施策を実施していたTOP2社について簡単に特徴を紹介する。

1位:ユミルリンク / Cuenote FC

ユミルリンク / Cuenote FC

全施策もれなく取り組んでいる結果、最も高い点数を出した。記事数やセミナー数も充実しており、BtoBマーケティングに注力していることが感じられる。

2位:CINC / Keywordmap

CINC / Keywordmap

僅差で2位だったが、1位同様しっかりと全施策に取り組んでいた。CVボタンの文言を文脈に合わせて変更するなど、Webサイトの定石を細部まで取り入れている。

本調査の提言

マーケティングに投資する余力が十分にあるはずの新規上場企業であっても、Web広告・SEO・セミナーをもれなく実施しているのは15社中たったの2社だった。細かなサイト改善に注力するよりも、チャネルを増やしたほうがコンバージョンの伸びしろがあると言えるだろう。

サイト改善はファーストビューにフォームを露出させ、どんなツールか端的に述べるだけでまずはよい。短期的にリード数を伸ばすならリスティング広告の出稿と商品紹介セミナーの定期開催を、中長期的にリード数を積み上げていくならブログの立ち上げを実施しよう。これらが実行されないままCMやタレント起用に予算や時間をかけるのは間違いだ。

デジタルマーケティングへ本格的に取り組み売上を伸ばしたいのなら、勝ちパターンに則って行動量を上げることが先決だ。

株式会社才流 代表取締役社長 栗原氏のコメント

本記事は行動量に関するレポートだが、過去に100以上のマーケティング支援プロジェクトに関わる中で行動量に関しての印象的な思い出がある。

昔、某IT企業へのインバウンドマーケティング支援で大きな成果が出たときの話。数年後、某IT企業の社長と話したときに「インバウンドマーケティングをやるなら、ブログをたくさん書かないとね!」と発言されていて、正直、インバウンドマーケティングの定義からは若干間違っているのだが、その会社は圧倒的な行動量があり、大きな成果が出ていた。「理論的な正しさよりも行動こそが成果を生むのか・・」と感じた出来事だった。

仕事やスポーツ、芸術などでの上達法則の一つに『量質転化』という言葉がある。ある一定量を積み重ねることで、質的な変化が起きる現象を指す。

筆者の経験上、ブランド毀損しない範囲かつ、しっかり振り返りをする前提ではあるが、マーケティング活動にも『量質転化』は当てはまる。行動量が多い企業は最初の数ヶ月から1年程度は失敗が多いかもしれないが、ある段階から行動の質が上がり、施策の成功確率が上がっていく。一度、『量質転化』が起きてしまえば、その後は量と質を兼ね備えた“マーケティングに強い会社”に変貌できる。

本記事で紹介されている“BtoB SaaSのデジタルマーケティングの定石” をはじめ、様々な“定石”が書籍やウェブ記事等で流通し、“定石”の実行を効率化・自動化してくれるツールも多数存在する。幸運なことに、現代のマーケターは、以前ほど“定石”の発見に時間とお金を使う必要はなくなっているのだ。

もしいまマーケティング活動で成果が出ていないのであれば、足りないのは「情報」や「ツール」ではなく、「行動量」かもしれない。

WACUL 取締役 垣内のコメント

まず当社WACULの点数が85点しかなく、満点じゃなかったことが非常に恥ずかしい。一方でこれは「正解が分かっていても、実行する方が難しい」ことを如実に表している。

お読みいただいて分かる通り、BtoBの定石は非常にシンプルだ。しかしこれらの定石を実行するには、経営者の強い意志表明、営業担当者との合意、マーケティング担当者の営業視点強化など、各ステークホルダーの考え方を180度転換させるような大変革が必要である。それゆえ多くの企業は、頭では定石を理解しつつも、BtoBマーケティングに失敗している。

BtoBマーケティングに成功した企業は、必ずと言っていいほど「台風の目になるような熱量の高い人物」がおり、全てのステークホルダーを巻き込んで、地ならしをしている。もし自らがDXを推進する立場なら、並々ならぬ熱量を持って進める覚悟を持つしかない。

またBtoBマーケティングを支援する側としても、定石を伝えるだけではもはや不十分だ。誰でも知っていることをドヤ顔で語っても、そんな陳腐化した情報は検索すればいくらでも手に入ってしまう。支援側に求められる要件は、台風の目になる人物を鼓舞しつつ、第三者の立場でステークホルダーの説得を支援することだ。

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