2019.05.22

研究レポート

2019年「デジタルマーケティングの論点」

はじめに

4月から新体制となった企業は多く、新たにマーケティング戦略を策定する時期を迎えました。中でも戦略策定の要となる「デジタル活用」において、何から取り組むべきか悩まれているケースが多いように感じます。

株式会社WACULはデジタルマーケティングの勝ちパターンを自動で提案する「AIアナリスト」を2万8千サイトに提供する中で感じる「デジタル活用において特に注意すべき論点」をまとめました。

「AI幻想の終焉」「企業のデジタルシフトによる予算増大」「プラットフォームの多様化」という3つの切り口から論点を発表します。

1)AI幻想の終焉

AIブームの発生から数年が経ち、今の技術で「できること」「できないこと」の理解が徐々に浸透してきました。

ガートナー社が毎年公表し、注目を集める「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」(2018/10/11)においても、人工知能(AI)やロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は幻滅期に入るとされています

AIやRPAなどの技術を用いたプロダクトについて細かく見てみると、データ分析や広告運用など、既にAIが実用化されている分野もあれば、まだ名ばかりのツールも多く存在するのが実情です。

この状況から、デジタルマーケティングを推進するマーケターは、今何に投資すべきかを冷静に見極める必要があると考えます。

1-1)「全自動のツールは存在しない」という認識形成

AIブームが加熱するあまり、全自動で成果を上げてくれるような「夢のツール」を導入したいという人が数多く存在しました。

局所的な自動化技術は既に存在します。しかし残念ながら、人間が一切手を加えずにマーケティングを自動化するという時代は訪れていません。

過度にAIへ期待するあまり、運用を怠って放置されるツールをよく見かけます。マーケティングオートメーション、接客ツール、ABテストツール、チャットボットなど、正しく使いこなせないマーケターも多い印象です。

いずれのツールも、マーケティングを深く理解した人間が、手動でルールを作り上げることで成果を上げるという域を出ません。運用業務は自動化できるため、正しく使えば有用なツールではあるものの、世の中の期待とは乖離があるように感じます。

1-2)広告自動化による体制変更

デジタルマーケティングで、今後AI活用が最も進む分野の1つが「広告運用」です。GoogleやFacebookに代表されるプラットフォーマーが、保有する大量データを元に自動最適化のアルゴリズムを開発しています。

つい最近まで、人間が手動で運用する方が成果が出ていました。しかし今ではAIに任せた方が成果が出やすく、人間による細かな調整はむしろ悪影響になります。

人間の仕事は、最初のアカウント設計と、クリエイティブ運用に絞られます。初期設定と制作だけであれば、従来の広告代理店の仕事とは異なり、業界全体の体制変更が求められます。

1-3)データ整備による潜在的格差が拡大

まだAIを活用できていない分野でも、将来の技術革新に備えてデータを収集・整備すべきです。データを持たざる企業は、潜在的な格差が拡大していることを認識した方が良いでしょう。

例えば、今のGoogleの画像認識技術では、何の画像かを判定する「物体検知」はできても、その画像の「状態」までは解釈できません。犬の画像の近くにある「dog」というテキストから、その画像が「dog」であることを学習していますが、その犬が「正面を向いている」のか「横を向いてるのか」まではテキストに書かれておらず、解釈できないのです。

画像の「状態」までAIで検知できるようになれば、ビジネスでの活用範囲も広がります。例えば、ECサイトでどのような「状態」の写真を選べばよいか分かるようになります。この技術が普及した時に、商品データを蓄積・整備できているかが勝負の分かれ目になるのです。

2)企業のデジタルシフトによる予算増大

「デジタルシフト」をテーマに掲げる企業は多く、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)を置く大企業はグローバルに数多く出てきました。

日本でも、2015年の日本ロレアルの長瀬次英氏を皮切りに、SOMPOホールディングス、ベネッセホールディングスや三菱商事などがCDO職を置きました。CDOに対する期待は大きく、そうした企業でCDOに就いた人材はその後、LDH JAPANやパナソニック コネクティッドソリューションズ社へと招聘されています。

この動きにより、CDOを中心とした戦略立案がなされ、各社ともデジタル分野に予算が大量投下されるため、従来のマーケットに影響が出てきます。

2-1)デジタル人材のミスマッチ発生

デジタルシフトへの注力でまず影響を受けたのが人材市場です。デジタルマーケティングに少しでも携わった人材の需要が急速に高まっています。しかしこの状況は一時的なものだと考えます。

デジタルシフトを標榜する企業が求める人材は「デジタルを活用した事業を作れる」人材です。事業開発経験があり、デジタルにも明るい人材が求められますが、そんな人材は極めて希少であり、簡単には採用できません。

その結果、Web制作、広告運用、ツール営業など単一分野に特化してきた「デジタル人材」が採用されます。しかしこうした人材は、企業が求める事業開発まで担うことが難しく、ミスマッチが発生します。

軽々と「デジタル人材」を採用するよりも、自社でビジネス経験を積んだ有望人材にデジタル感覚を付けさせる方が効率的です。正しいデジタル感覚を付けさせるために、ハイレベルな人材を顧問に迎え入れる動きも加速する可能性があります。

2-2)ユーザ不在の新規事業乱立

人材不足の中で、予算だけが投下されれば、実を結ばない新規事業が大量に生まれます。特にデジタル世界は、ユーザの動きが見えづらいため、誰も使わないサービスが乱立することになります。

デジタル世界は基本的にセルフサービスです。ユーザは自分ひとりで黙々と使用し、少しでも気に入らなければすぐに離れていきます。そのため新規事業開発で最も重要なのは、「ユーザ理解」です。

2-3)検索流入の競争が激化

誰も使わないサービスが乱立した後に起こることは、広告出稿による強制集客です。その中でも検索広告は取り組みやすいため、入札単価がさらに高騰する恐れがあります。

加えてコンテンツマーケティングの流行により、自然検索の競争も激化しています。今は短い記事を書いただけで集客できても、競合が現れた途端にその優位性は崩れ去ります。CVに繋がるキーワードを吟味し、ユーザを深く理解した「質の高い」コンテンツを作れる体制が求められます。

誰でもできる手軽な施策はすぐレッドオーシャンに陥ります。手間暇をかけて他社と差別化できるサービス/コンテンツを開発しなければ、中長期の成長は望めません。

3)プラットフォームの多様化

数年前までは、検索対策だけやっていれば良かった業界も少なくありません。しかし近年プラットフォームはGoogle検索一強時代から、Facebook、Twitter、Instagram、Youtube、TikTokなど多様化時代に入り、企業も対応を迫られています。

ICT総研社「2018年度 SNS利用動向に関する調査」(2018/12/18)によると、日本のSNS利用者は2018年末で7,523万人(普及率75%)まで広がっており、2020年末にはさらに7,937万人へ拡大する見込みです。

3-1)複数プラットフォーム対応による疲弊

新興プラットフォームが登場するたびに、企業は対応を迫られます。対応するプラットフォームが増えても、売上に貢献しなければ運用リソースを増やせません。現場は目的が曖昧なプラットフォーム運用で疲弊していきます。

しかし、そもそも全てのプラットフォームに対応する必要はありません。会社ごとに顧客の購買プロセスの核となるプラットフォームに絞って対応すべきです。

従来通りGoogle検索と自社サイトに注力すれば良い会社もありますし、新興プラットフォームを活用すべき会社もあります。トレンドに流されず、冷静に自社顧客がどこにいて、何をトリガーに購買するのかを見極める必要があります。

3-2)顧客データ取得の難化

従来は検索からWebサイトに訪れるユーザが大半を占めたため、Webサイトのデータだけ分析すれば、おおよそのユーザ行動を把握できました。

しかしプラットフォームの多様化に伴い、企業は顧客データを取得しづらくなりました。例えば、Instagramはリンクを投稿できないため、アプリ内でユーザ行動が完結し、企業側はデータを取得できません。

どれだけ売上に貢献しているか分からないプラットフォームに対して、何となく不安だから対策するというのは非効率です。データがないなら、古典的な定性インタビューや、定量アンケートを実施し、優先度を決めるべきです。

終わりに

2019年に限らない継続的な論点も挙げましたが、いずれもマーケティング戦略を検討する上で注意したい事項です。マーケターが安易なトレンドに流されず、本質的に価値のある活動を実践できるように、株式会社WACULは情報発信を続けていきます。