2019.03.28
SaaSを扱うB2Bサイトにおける事例紹介ページの改善策の提言
B2B SaaSサービスを提供する企業における事例紹介ページのCVRを最大化する手法に関する調査
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調査に至る前提
B2B企業におけるウェブサイト設計は見込み客獲得のために重要性が高い
ウェブサイト設計はB2Bサイトであっても重要である。なぜならば、ウェブサイトにおける資料請求や問い合わせデータを通じて、自社サービスに対して関心の高い潜在顧客からのリードを獲得でき、結果的に営業工数の削減や、コスト削減につながるからである。特に、営業人員が多くない中小企業にとって、効率よく営業につなげることのできるウェブマーケティングは重要である。また、顧客目線からもウェブサイト設計は重要である。導入検討の際に企業ウェブサイトを参考にするユーザーが54%に及んでいるというデータもある。このことからもユーザーに使いやすく、サービスの良さをうまく訴求できるウェブサイトの設計はB2Bサービスを扱う企業にとって重要である。
B2Bで注目度の高い“事例ページ”に着目して調査を実施した
それを踏まえて本調査ではウェブマーケティングの中でも導入事例ページの設計に着目した。ウェブサイトを訪れるユーザーはサービスに興味を持っただけのユーザーもいれば、真剣に検討しているユーザーもいる。その中でも導入事例ページを訪れるユーザーは、サービスの検討段階にあるユーザーが多いと考えられる。理由としては、事例ページは利用イメージを喚起したり、導入について社内での稟議を行う際の参考にしたりという目的でユーザーに閲覧されるコンテンツだからである。そのため、通常であれば資料請求や無料トライアルといった無料CVのCVRは、導入事例を見たユーザーの方が導入事例を見ていないユーザーに対して高くなるはずである。しかし、実際には逆に低くなっているサイトが存在するため、事例ページの設計について改善できる余地が大きいと判断し、調査を実施した。
また、本調査は、株式会社WACULの提供する、AIがWebサイトの診断から改善提案まで自動で行う「AIアナリスト」上に登録されている26,000件のサイトの中から、SaaSを扱うB2B企業という形でサイト特性を絞ってサイトデータを抽出し、企業横断的に分析を行った。これにより、同一業界内の複数サイトについて横断的に分析を行うことが可能となった。つまり、1サイトだけではなく、その競合サイトも分析できるようになり、特性の似たユーザーについて、Webサイト上行動データをより多く分析することが可能となった。
調査結果概要
事例コンテンツは最低12件が必達で30件を目指し、資料請求導線を設置すべき。また、ユーザーが自社に類似した事例を探せるUIが大切
I.事例コンテンツ数とCVRの関係について
- 事例コンテンツを追加することで得られるCVRの改善効果は、事例コンテンツ数30件までは大きく、事例コンテンツ数30件以降は小さくなる
- 事例コンテンツが12件を超えると一般に「事例ページ経由CVR」の方が、「事例ページ非経由CVR」に対して高くなる
II.各種UI/UXとCVRの関係について
- 事例詳細ページに資料請求導線を設置することでCVRは高くなる
- 事例トップページにおいて、ファーストビューで目立つ導入実績のアピールはした方がCVRは高くなる
- 事例トップページにおいて業界・ニーズ別事例検索機能を設置することでCVRは高くなる
III.事例コンテンツ数30件以上のサイトにおけるUI/UXの最適化とCVR改善効果の関係について
- 事例コンテンツ数30件以上のサイトにおいてUI/UX最適化のCVR改善への効果は大きい
調査結果詳細
コンテンツ数、UI/UX、その改善効果の3点でデータから勝ちパターンをひも解いた
I.コンテンツ数とCVRとの関係について
一般に事例コンテンツが増えるほどCVRが上がりそうなイメージがあるが、本調査では、その傾向自体は正しいことに加え、コンテンツを増やす際に目安となるコンテンツ数について参考となる結果が得られた。
- 事例コンテンツを追加することで得られるCVR改善効果は、事例コンテンツ数30件までは大きく、事例コンテンツ数30件からは小さくなる
- 事例コンテンツが12件を超えると、「事例ページ経由CVR」の方が「事例ページ非経由CVR」に対して高くなる
1.事例コンテンツを追加することで得られるCVR改善効果は、事例コンテンツが30件になるまでは大きく、事例コンテンツが30件を超えると小さくなる。
事例コンテンツの数とCVR改善効果という点についてみると、一般的に事例コンテンツを増やすことでCVRは上昇すると考えられるが、事例を1件追加することで得られるCVRの上昇率という点では事例コンテンツ数30件という数字を境に大きく変化することが分かった。
事例コンテンツ数30件までは、事例を1件追加することとそれによって得られるCVR改善効果には強い正の相関がある。考えられる理由としては以下の2つである。1つ目としては、コンテンツ数の多さが、サービスに対してユーザーが抱く安心感の醸成につながっているからである。導入事例が多い方が、広く受け入れられているよいサービスであり、リスクは小さいというイメージをユーザーが抱く可能性が大きくなり、資料請求などのCVにつながると考えられる。2つ目としては、事例数が多くなるほど、ユーザーの競合他社やニーズに合致する事例が存在することが多くなり、ユーザーが利用イメージを抱いて、自社においても有用であると判断し、CVにつながると考えられる。
一方で事例コンテンツが30件を超えると、事例を1件追加することによって得られるCVRの改善効果が小さくなる。考えられる理由としては、事例コンテンツ30件までの場合に、CVR改善につながっていた効果が小さくなるからである。事例コンテンツが30件あれば、事例が少なすぎて不安と感じるユーザーは少ないと考えられる。また、事例コンテンツが30件あればだいたいの業界やニーズに対応することができていると考えられる。したがって、事例コンテンツが30件以上のサイトについては、カバーしきれていない業界やニーズについての事例と優先的に追加していくべきである。

2.事例コンテンツが12件を超えると、「事例ページ経由CVR」の方が、「事例ページ非経由CVR」よりも高くなる
「事例ページ経由CVR」が「事例ページ非経由CVR」に対して高くなる場合と低くなる場合を調査したところ、事例コンテンツが12件以上かどうかということと関係が見られた。
事例コンテンツが12件以上であるウェブサイトについては調査したすべてのサイトで「事例ページ経由CVR」の方が「事例ページ非経由CVR」よりも高かった。一方で12件未満のサイトにおいては66.6%のサイトで、「事例ページ経由CVR」が「事例ページ非経由CVR」よりも低くなった。つまり、事例ページを見ることでユーザーがCVをしない確率が高くなってしまったといえる。
このような結果になった理由としては、以下の2つである。1つ目としては、事例コンテンツが12件未満の場合、ユーザーがサービスに対して不安を感じる可能性が大きいからである。事例数が少ない場合、広く受け入れられているサービスでないと印象につながり、その理由としては何かサービスに良くない点があるのではないかなどといった不安を抱いて検討をやめてしまうなどといった場合が考えられる。2つ目としては、事例数が少ないとサービスの利用イメージがわかないため検討が進めにくくなってしまうからである。その結果、事例ページを見る前よりもCVRが下がってしまう。
そのため、事例コンテンツは少なくとも12件は用意すべきである。

II.各種UI/UXとCVRの関係について
事例ページについて考える際に事例コンテンツ数だけでなく、事例コンテンツをどのように見せるかなどといったUI/UXについても重要であると考えられる。そこで、CVR倍率の高いサイトと低いサイトを比較検証し、以下の3つの要因についてCVRと関連があるという結果が得られた。
- 事例詳細ページ内に資料請求導線を置くことで、CVRは高くなる
- 事例トップページにおいて、導入実績のアピールを行うことで、CVRは高くなる
- 事例トップページにおいて、業界・ニーズ別事例検索機能を設置することでCVRは高くなる
1.事例詳細ページ内に資料請求導線を置くことで、CVRは高くなる
事例詳細ページにおいて事例紹介後のCV導線として、資料請求導線があるサイトは、無料トライアルへの導線だけのサイトに対して、CVR倍率が高いことが分かった。事例ページ経由ユーザーは、非経由ユーザーに対して、サービスに対する安心感が高く、社内での導入検討に必要な材料を探しているはずである。そして、ユーザーの中には無料トライアルを行う際にも社内稟議を通さなくてはならない場合もあり、その場合、事例ページを見たユーザーが欲するCV導線は商品紹介や事例紹介の資料請求導線である可能性が大きい。そのようなユーザーに対し、仮に詳細ページからのCV導線が無料トライアルのみであった場合、そのユーザーは不便に感じ、CVをせずに離脱してしまう可能性が大きくなる。
そのため、できるだけ幅広いユーザーのニーズに対応するため、無料トライアル導線だけでなく、資料請求導線も設置すべきである。

2.事例トップページにおいて、導入実績のアピールを行うことで、CVRは高くなる
事例トップページのファーストビューに目立つ形で実績アピールを行っているサイトのCVR倍率は、そうでないサイトに対して高いことが分かった。実績アピールとは、導入件数実績や、業界内シェアといった数値での実績の表示や、有名企業の事例をファーストビューへ掲載する事例ピックアップ表示機能のことである。
こうなる理由としては、導入件数やシェアといった定量的な情報や、有名企業が導入しているという情報はサービスに対する安心感につながるとともに、社内で上司を説得しやすいサービスというイメージをユーザーに持たせやすいからである。また、それをファーストビューに表示することで、ユーザーが実績の情報を見落とすのを防ぐことができると考えられる。
そのため、何らかの実績がある場合は事例トップページのファーストビューに目立つ形で表示するべきである。

3.事例トップページにおいて、業界・ニーズ別事例検索機能を設置することでCVRは高くなる
業界・ニーズ別事例検索機能を持つサイトのCVR倍率は、そうでないサイトのCVR倍率よりも高くなることが分かった。
そうなる理由としては以下の通りである。まず、事例ページを見ているユーザーは主にサービスを検討しているユーザーである。そのような検討段階のユーザーにとって、ランダムに表示される事例よりも、業界や解決したい課題などに共通点のある事例の方が関心を抱きやすく、有用だと感じるはずである。よって、事例を見つけやすくできる業界・ニーズ別事例検索機能を備えることでそうでない場合に対してCVRが高くなる。
そのため、事例トップページにおいて業界・ニーズ別検索機能を設置すべきである。


III.事例コンテンツ数30件以上のサイトにおけるUI/UX最適化とCVR改善との関係について
Ⅰにおいて事例コンテンツが30件に達するまでは事例コンテンツを追加することで大きなCVR改善効果が得られるという結果が得られたが、では事例コンテンツが30件以上の場合にどのようにCVRを伸ばせばいいのかという疑問がわく。そのため、事例コンテンツが30件以上のサイトについて、何がCVR倍率の差につながっているかを調査したところ、Ⅱで述べたUI/UXの差分が影響していることが分かった。
事例コンテンツが30件以上のサイトの中で、よりCVR倍率が高いサイトは「詳細ページ内資料導線」「実績アピール」「業界・ニーズ検索機能」の3つの条件を満たしているということが分かった。そうなる理由としては以下の通りである。「資料検索導線」がないということはCVRに対してマイナス要因であるため、資料導線がないとCVRは低くなる。次に「実績アピール」は、30件を超えてくると、事例コンテンツを導入するよりもどう見せるかという工夫がよりユーザーの導入意欲の上昇につながると考えられる。最後に「業界・ニーズ検索機能」については、30件を超えると、業界やニーズの共通点のある事例を探し出すのが難しくなるため、検索機能がないと使い勝手の悪さが上がってしまい、事例の多さがマイナス要因になってしまうと考えられる。
そのため、事例コンテンツが30件を超えるサイトについては特にUI/UX面での改善が効果的である。
