2020.04.23

研究レポート

宿・ホテル公式サイト比較調査・ベストプラクティス発表

宿・ホテル公式サイト比較調査・ベストプラクティス発表

調査に至った背景

新型コロナウイルスに大きく影響を受けている宿泊業界の一助となるべくサイトのCVR改善ポイントを公開

2020年4月10日に発表された東京商工リサーチの調査によると、「新型コロナウイルスによって企業活動に影響が出ている」と回答した宿泊業者は97.56%。これはあらゆる業種のなかでもトップ3に入る水準で、ほとんどの宿・ホテルが打撃を受けているといえる。

外出自粛が続く中でお客様を迎え入れることはなかなか難しい状況にあるが、今こそデジタル上の「接客」を磨き上げる、すなわち公式サイトのCVR※1改善に取り組むタイミングとしてよいのではないかと考え、今回の調査に至った。

サイトのCVR改善には当然デザインやコーディング、システム開発が伴うものもあるが、要点さえ押さえれば少ない工数で成果が見込める箇所が多々ある。限られた予算であっても改善はできるのだ。今のうちに手を打っておけば、安全な旅や宿泊が楽しめるようになったタイミングで来客増加が見込める。

30,000を超えるサイトを分析してきたアクセス解析ツール「AIアナリスト」のデータより導いた宿・ホテルの公式サイトにおけるCVR改善の定石をここに公開することで、宿泊業界の長期的な売上回復に少しでも貢献できれば幸いである。

調査内容

調査の流れ

本調査はCVR改善のポイントをただ並べるだけではなく、実在する宿・ホテル公式サイトがどのぐらいCVR改善に取り組めているのかを定量的に評価、ランキング化する。これによって上位のサイトを良い事例としてご覧いただけるほか、現状多くのサイトが取り組めていない項目を把握した上で優先度の高い改善施策を提言することができる。

調査の流れは以下のとおりだ。

  1. AIアナリストより得られたデータからCVRの高い宿・ホテル公式サイトの勝ちパターンを抽出
  2. 1に基づき評価項目と採点基準を作成
  3. 2に基づき宿・ホテル公式サイトを150点満点で採点しランキング化

なお、今回はモバイルから流入した新規ユーザーを前提に調査を進める。宿・ホテル公式サイトはモバイルからの流入が大半であり、且つ新規ユーザーかリピーターかによってユーザー行動が大きく異なるためだ。(次章で詳述)

評価対象・採点方法

抽出された勝ちパターンを具体的な評価項目に落とし込み、150点満点で採点をおこなった。

評価対象は関東・甲信越/じゃらんnet売れ筋宿ランキングにおける各カテゴリの1〜3位の宿・ホテル、全15の公式サイト。売上が高い、すなわちCVR改善にも既に力を注いでいる可能性の高い宿・ホテルに絞り評価をおこなった。

また、採点は調査日(2020年4月13日)時点でスマホから指名検索※2した際に表示されたサイトに対し目視で行っている。表示速度の測定にはGoogleの「ページスピードインサイト(PageSpeed-Insights)」を用いた。

調査結果Ⅰ 勝ちパターンの抽出

新規ユーザーのCVR改善における7つの勝ちパターン

勝ちパターンを紹介するにあたり、宿・ホテル公式サイトにおけるユーザー行動をまずご理解いただく必要がある。

リピーターであれば指名検索で公式サイトに流入後、すぐに電話で予約をとる……といった行動も起こり得るが、新規ユーザーの場合、最初から公式サイトを訪れることはほぼない。宿・ホテル探しの起点となるのはじゃらんや楽天トラベルといったポータルサイトだ。

気になる宿・ホテルが見つかった後、そのままポータルサイト上の情報だけで予約を済ませてしまうユーザーも多い。しかし一定数は「もっと詳細な施設情報や写真が見たい」「もっと安い価格で予約できるのでは?」といった理由で宿・ホテル名をコピーし、検索エンジンで再度検索して公式サイトを訪れる。

公式サイトのトップページに流入した後は、施設情報や希望するプランの価格をチェック。CV※3、すなわち予約はポイントのたまるポータルサイトへ戻って行われることも多いが、公式サイトから予約するメリット(=最安値であること)が分かれば、公式サイトにて予約が実行される。

図表1:宿・ホテル公式サイトにおける新規ユーザーの行動パターン

既に興味をもってくれている状態でサイトに流入しているとはいえ、トップページを一瞬見ただけですぐに離脱してしまうユーザーは多い。予約まで適切に導くために必要な動線や情報とは一体なにか、AIアナリストより得られたデータをもとに抽出した7つの勝ちパターンを以下にまとめた。

採点過程で見えた実態と、具体的な改善施策についても合わせて記載する。

1.指名検索から公式サイトへの動線が分かりやすい

ユーザーは指名検索で公式サイトへの入口を探しにくるが、その際検索結果はポータルサイト内の宿・ホテル紹介ページが競合としてズラリ並ぶことになる。ポータルサイトがリスティング広告※4を出稿していることもしばしばだ。

この状況下で公式サイトに求められるのは、まず指名検索できちんと検索結果1位をとること、そしてサイトタイトルに【公式】と明記することだ。

この評価項目は多くのサイトがクリアしていたが、【公式】とタイトルに入っていないサイトが数件見つかった。テキストを少し編集するだけで実行できる施策のため、すぐにでも取り組んでいただきたい。また、指名検索におけるリスティング広告はクリック単価も安く数千〜数万円の月予算でも十分と想定されるため、ポータルサイトに流れてしまうぐらいなら自社でもリスティング広告を出稿しておくことをおすすめする。

2.表示速度が速い

最初に訪れたページの表示速度が遅いと、ユーザーはあっという間に離脱してしまう。表示速度は直帰率だけでなくSEO※5にも悪影響を及ぼすため要改善ポイントだ。

宿・ホテル公式サイトは総じて表示速度が遅いものが多かった。原因はおそらくトップページのファーストビュー※6使われているリッチな画像や動画の容量が大きいことだ。適切なサイズなのか、もっと軽量化できないのか、ぜひ一度見直してほしい。

3.スマホ対応している

宿・ホテル公式サイトのように、BtoCでモバイル流入の比率が高いWebサイトにおけるスマホ対応は急務である。対応していない場合著しくユーザビリティが損なわれてしまうのはもちろんのこと、こちらもSEOに与える悪影響が大きい。

比較的規模の小さい宿において、プラン一覧は(予約システムが搭載されているため)スマホ対応しているのにトップページがスマホ対応していない……というパターンが数件見受けられた。他の下層ページはさておき、サイトの入口であり流入の多いトップページだけは早めにスマホ対応を検討すべきである。

4.「公式ベストレート」が明記されている

ユーザー行動で紹介したとおり、公式サイトで予約が行われる決め手となるのは「ポータルサイトよりも安い価格かどうか」の一点だ。よって「公式ベストレート(公式サイトで予約するのが最安値)」を明記することはなにより重要であり、他の評価項目よりもやや点数配分高めに採点をおこなった。

公式ベストレートは、意図的にアピールしなければ施設情報や写真を求めてふらっと訪れるユーザーにあっけなく見逃されてしまうため注意してほしい。最も目立つトップページのファーストビューへの記載は必須だ。また、タイトルやディスクリプション※7に入れておくとサイトを訪れる前の検索結果時点から訴求できる。各プランの紹介文など、ユーザーが読み込む場所に差し込んでおくのも有効だ。

採点してみると多くのサイトが公式ベストレートを明記していないことが分かった。事情により記載できない宿・ホテルもあるとは思うが、記載できるのであれば、少ない工数で成果に繋げやすい施策のためぜひ取り組んでいただきたい。

ちなみに、「ポイント付与」や「1,000円引き」といった公式サイト特典を掲げる宿もあったが、あくまで重要なのは「ポータルサイトより安いか否か」であり、単なる公式サイト特典はあまりユーザーに響かないと考えたほうがいい。

5.ファーストビューに検索フォームが露出している

ファーストビューにおけるフォーム露出は宿・ホテル公式サイトに限らず、CVRを改善する上でとても有効な施策だ。より詳細を知りたい方はLPに関する研究レポートをご覧いただきたい。

ファーストビューに「予約」「空室検索」といったフォームに直行するボタンが表示されているサイトがほとんどだったが、ランキング2位のサイトのみ、入力項目までしっかりと露出していた。(次章で紹介)こちらを参考にしながら、メインビジュアル※8の縦幅を短めに設定しフォームの露出割合を高めるなど調整してみてほしい。

6.プランの序列が明確で選びやすい

いざ予約に至る前には、希望の条件にあうプランを絞り込み比較検討するという行動が公式サイト内でも発生する。「日付」「人数」「価格帯」「食事ありなし」などよく活用される絞り込み条件は選択できるとよい。また、プランが十数件も出てきてしまうとユーザーは決めづらくなるため、「価格が安い順」「人気順」といった並べ替え機能をつけることで選びやすくするようサポートすべきだ。

あくまでここで重要なのは絞り込みや並び替えの機能が充実していることではなく、「迷わせず、選びやすくしてあげる」ことである。推したいプランが明確に1つあるのであれば、それだけを大きく取り上げて紹介するのも一つの手だ。

また、宿泊に特化した予約システムが搭載されているサイトが多いため、この評価項目はほとんどのサイトで十分な対応が見受けられた。

7.プランの一覧性が高く比較しやすい

複数のプランを比較する上では、スマホの1画面内で3〜5つのプランが俯瞰でき、且つ表のように情報が整列していると大変分かりやすい。

この項目が実現できているサイトは少なかった。1画面に表示されるプラン数を変更するのは少々大変かもしれないが、プランに対する説明文の見直しはすぐに取り組めることだと言える。現状、1つのプランに長文の説明が添えられており、何度もスクロールしないといけないサイトが多かった。スマホユーザーを前提に文章量を見直すことをおすすめする。

調査結果Ⅱ 宿・ホテル公式サイトランキング

7つの評価項目に基づき15の宿・ホテル公式サイトを採点したランキング結果はこちらだ。

図表2:関東で人気の宿・ホテル公式サイトランキング

1位は総合点108.8点のアポホテル&リゾート<東京ベイ幕張>で、2位に大きく差をつけた。4位以下の点数がかなり似通っているが、これは共通の予約システムが搭載されているために勝ちパターン6.7において点差がでなかったためだ。また、点数が伸び悩んだ10位以下の宿・ホテルはスマホ未対応による減点が大きく響いている。

上位2サイトについては以下に特徴をまとめたので、ぜひ実際のサイトをご覧いただきたい。

1位:アパホテル&リゾート<東京ベイ幕張>

唯一公式ベストレートの記載がしっかりとあり堂々の1位を獲得した。(スマホのファーストビューにもあればさらに点数が伸ばせた。)また、プラン一覧が非常に分かりやすく比較検討しやすい。

図表3:アパホテル&リゾート<東京ベイ幕張>の評価

2位:箱根 萬岳楼

唯一トップページにフォームが露出していた。プラン一覧も非常に分かりやすく、公式ベストレート記載さえあれば1位を見込めたサイトだ。

図表4:箱根 萬岳楼の評価

本調査の提言

宿・ホテル公式サイトにおける勝ちパターンは以下の7つである。

  1. 指名検索から公式サイトへの動線が分かりやすい
  2. 表示速度が速い
  3. スマホ対応している
  4. 「公式ベストレート」が明記されている
  5. ファーストビューに検索フォームが露出している
  6. プランの序列が明確で選びやすい
  7. プランの一覧性が高く比較しやすい

特に重視している「公式ベストレート」の明記はまだ多くのサイトが実行できていないものの、テキスト変更や簡単なデザイン修正で取り入れられる施策のため、すぐにでも着手すべきである。

また、その他も大幅なデザインリニューアルやシステム開発を伴うものは一切なく、少しの工夫と工数で取り組んでいただける施策ばかりだ。

なかなか厳しい状況が続いてはいるが、これからも長く宿泊業を営むために今できることの1つとして、ぜひ当調査を参考にデジタル上の接客を磨き抜いていただきたい。

WACUL 取締役CIO 垣内のコメント

ホームページを直しても、コロナショックで落ちた売上をすぐに戻すことはできません。しかし外出制限が弱まったタイミングに最高のスタートダッシュが切れるよう、今できることに注力すべきでしょう。

上記のポイントは、じゃらんなどポータルサイト経由のユーザを、できる限り公式ホームページで予約させるために有効な手段です。しかし、競合のホテルや宿との勝負は、ポータル側で決まってしまっているケースがほとんどです。

ポータル側の「口コミ」「写真」「価格」「空き状況」など、リアルタイムに魅力的な情報を更新できなければ、そもそも公式ホームページに来てもらうことも叶いません。口コミには全て返信すべきですし、写真は渾身の画像を複数載せるべきです。

ポータルは、じゃらん、楽天トラベルなどの宿泊予約サイトの他にも、Googleマップなど、ユーザの目に触れうるものには、できる限り網羅的に対応すべきです。費用をかけずに掲載できるサイトも多いため、正確な情報の更新と、口コミ返信だけは欠かさずに対応すべきです。

また宿・ホテルのビジネスでは、リピーター獲得も重要な論点です。定期的なキャンペーンをメール等で通知する施策が基本ですが、そのためには顧客リストの整備が欠かせません。特にコロナからの復活には、既存顧客へのアプローチが最も簡単で即効性の高い施策だと言えるでしょう。

WACUL 取締役CIO 垣内勇威(@yuikakiuchi

1984年生まれ。東京大学を卒業後、株式会社ビービットに入社。大手クライアントのWeb改善コンサルティングに多数携わる。2013年に株式会社WACULに入社、取締役に就任。WACULでは、AIを活用したWebサイト分析サービス「AIアナリスト」の立ち上げに関わり、現在は「AIアナリスト」を基盤とした、新たな価値創造・事業創出をすべく、新規事業インキュベーションの責任者を担当。

※用語の解説

CVR(Conversion Rate)
ページを訪れたユーザーがどのぐらいコンバージョン※3に至ったかを表す比率。
指名検索
店名や会社名をキーワードとして入力し検索すること。今回の場合は「宿・ホテル名」で検索することを指す。
CV(Conversion)
ユーザーに期待するゴール。今回の場合は「予約」に当たる。
リスティング広告
検索エンジンの検索結果に掲載されるWeb広告。検索キーワードに連動した広告が表示される。
SEO(Search Engine Optimization)
検索エンジンからサイト訪問者を増やすための施策。主に狙った検索キーワードで検索結果上位に表示されることを目標とする。
ファーストビュー
Webサイトを訪れた時に最初に目に入る部分。スクロールせずに見える範囲を指す。
ディスクリプション
検索結果でタイトルの下に表示される、Webページの紹介文。
メインビジュアル
Webサイトのイメージを決定づける、ファーストビューにある大きな画像/動画。キービジュアルとも呼ばれる。