2021.05.11

対談

実店舗のメガネ選びをデジタル化 – 地味で本質的なJINSのDX事例

実店舗のメガネ選びをデジタル化 – 地味で本質的なJINSのDX事例

対談者の紹介

株式会社ジンズ コンタクト事業本部/コミュニケーション本部(兼務)
澤田 栄一(さわだ えいいち)

1980年生まれ。新卒でエンジニアを経験、その後Webサービス業界にてプロマネ、サービス開発、データアナリスト、事業開発を経験。2018年3月に株式会社ジンズに入社。デジタル戦略部マネージャーとしてECやSNSを統括。

現在はコンタクトレンズ事業において、事業推進、サービスデザイン、デジタルマーケティングを一気通貫で担当。

イチマルイチデザイン株式会社
ディレクター 眞鍋 一生(まなべ いっせい)

1985年生まれ。福岡県出身。クリエイティブディレクター/アートディレクター。美容専門学校卒業後、2007年に渡英。ロンドンでスタイリストデビュー後、フォトグラファーを目指し帰国後は青山スタジオに入社。

現在はウェブ制作事業を中心に、企業やブランドストーリーの商品化、クリエイティブの課題解決に携わる。

2021年起業予定。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威(かきうち ゆうい)

1984年生まれ。東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」の立ち上げ。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を立ち上げ、所長に就任。
現在、 研究所所長および取締役CIO(Cheif Incubation Officer)として、新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど、長期目線での事業開発の責任者を務める。

ぴったりメガネ診断の狙いは「実店舗でしかできないユーザ体験のデジタル化」

垣内 まずは「ぴったりメガネ診断」の開発プロジェクトが始まったきっかけを伺えますか?

澤田 当時、Webサイトの目的として「来店前の商品検索体験の向上」を掲げていて、「Webサイトを商品カタログとして使ってもらう」ことを目指していました。その中で「店舗でしかできない商品検索体験を、オンラインで実現したい」と思ったのがきっかけです。

垣内 特にコロナ禍では、店舗に行かずWeb上で購入したいニーズも増えますよね。では「店舗でしかできないユーザ体験」とは、具体的に何でしょうか?

澤田 具体的には、以下3つの体験です。 (1)スタッフによるメガネの提案
(2)試着して自分の好みか、似合っているか判断する
(3)身近な人に見せて「似合ってるね」と言われる
これは、店舗でお客様がメガネを購入するまでのプロセスでもあります。なので「この3つをデジタルで実現できれば、来店前の商品検索体験が向上するだけでなく、オンラインでも購買が完結しやすくなるのでは?」という仮説がありました。

垣内 既に(2)〜(3)はデジタルで実現できていましたよね。

澤田 そうですね。「バーチャル試着」で(2)~(3)はある程度実現していました。なので次は、スタッフの接客を疑似体験できる「ぴったりメガネ診断」を開発しようという話になりました。 また、元々「メガネの選び方」というページが存在していましたが、そこからの購入率は低かったんです。この原因は「選び方はわかったけど、結局どれが似合うの?」と迷うことではないかと考えていました。 Google検索でもかなりの流入数があり、お客様の「不」も明確だったので、メガネの選び方ページにメガネ診断を設置すれば、定常的にツールが利用される確信がありました。

ぴったりメガネ診断経由のCV率が最大2倍ほどに

垣内 それでは「ぴったりメガネ診断」ではどのような成果が出たのでしょうか?

澤田 診断ツールを使っていないユーザに比べ、ツールを使ったユーザの購入率は約2倍となりました。もちろん、「購入しやすいユーザほど診断ツールを使っているだけではないか?」という意見もあります。 ただ、検索経由で「メガネの選び方ページ」に辿りついたユーザの読後に購入してくれた割合が、ローンチ前にくらべ約1.2倍になりました。検索関連含め、他に環境要因は思いつかないので、効果がかなり出ていると思います。 現状のメガネ診断は仮説検証するためのMVP(Minimum Viable Product)的な位置づけだったので、まだまだ未完成です。ロジックやUXをアップデートすることで、さらなる効果が出ると思っています。

垣内 この診断ツールは「AIを駆使した最先端のツール」などではありません。むしろ現場の集合知を人力でシステム化した、比較的アナログなツールと言えます。ただ、本来のDXって多くはこういう地味な取り組みのはずなんですよね。「オフラインで需要があり成果が出ていること(=店舗での接客ナレッジ)をデジタルで再現する」 ただそれだけです。世の中には「AIだ、DXだ」と、その言葉にお金を支払ってしまう方々もいますが、本当にお客様を見ているのか?現場に意味があるのか?を考えてみてほしいですね。

「ぴったりメガネ診断」開発プロジェクトの感想は?

垣内 実際、今回開発プロジェクトを進めた感想を伺ってもよろしいでしょうか?私が主に担当した「診断の判定ロジック」と、眞鍋さんが担当された「デザイン面」それぞれお聞きしたいです。

膨大な接客ナレッジから作成した、納得感のある診断ロジック

澤田 まず、複雑な分岐を整理し要件定義した垣内さん、本当すごいと思いました(笑)店舗スタッフにヒアリングを重ね、膨大な接客ナレッジを全部で16の質問に落とし込み、「まるで店舗スタッフがお客様のメガネを選んだかのような判定ロジック」を作り上げてくれました。垣内さんのご尽力のおかげでこのサービスが完成しています。

垣内 たしかに、質問数の多さは重要視して作りました。2~3問しか選択せずに「あなたにおすすめの商品はこれ」と言われても「本当にちゃんと選んだの?」と感じてしまうので。もしそう思われてしまったら、商品は購入してもらえません。なので、今回は16問用意し、その分の診断結果パターンも用意しています。とにかく納得感を大事にしていましたね。 もう明日からJINSのお店に立っても、お客さんに似合うメガネをおすすめできる自信があります(笑)

ユーザファーストとJINSらしさを両立させるデザイン

澤田 デザインについては「ユーザはどう感じるか?」の目線で常に考えていただけたのが良かったです。ユーザファーストは私も大事にしていますが、どうしても「自分がこうしたい」と主観的になってしまう瞬間があります。そのタイミングで、眞鍋さんが「ユーザ的には〇〇のほうが良いと思う」と意見をくださるのがありがたかったですね。

眞鍋 そうですね、まずは何より「ユーザが使いやすいか」が最重要です。その上であえて余白を作り、シンプルでスマートな「JINSらしさ」を表現するようデザインしました。それに加えて「ユーザにとっての機能性(ストレスを感じさせず、直感的に使いやすいこと)」を両立するよう設計しています。

眞鍋 ユーザは視覚情報に変化がない状態で、何度も質問を受けると、飽きて離脱につながってしまいます。そこで、背景を動かしたり、ボタンを跳ねさせるなどの動きを取り入れました。

澤田 他にも、何も言わずともJINSのサイトに馴染むようにデザインの雰囲気や色を合わせてくれたのも助かりました。正直、デザインについては「シンプルに、洗練された感じ」くらいしか伝えていません。細かくオーダーせずとも、サイトを見て汲み取ってくれたのが素晴らしかったですね。

眞鍋 ありがとうございます。「シンプルであること」は質問の選択肢でも大事にしていましたよね。

垣内 そうでしたね。答えやすいようシンプルな質問にしました。例えば「服は寒色が多いですか?暖色が多いですか?」「今は他のメガネをお持ちですか?」などですね。ちょっとでも悩むとユーザは手が止まって離脱してしまうので、「思考停止で選択できるか」は診断ツールでは非常に重要です。

澤田 診断ロジック策定のところでもお話ししたように、細かいところまで当社で指示を出さなくても、意図を汲み取ってくれる。そして、期待以上のものを制作までしてくれるといった点で、WACULさんに入ってもらってよかったなと感じています。

大規模なECサイトは「おすすめ商品診断」を作るべき

垣内 今回、ユーザの「結局どの商品にすれば良いの?」を解決することで購入率が改善しました。この「結局どれ?と迷って購入を先送りにされてしまう問題」は、商品の多いECサイトならどの企業にも当てはまる問題です。 なので、商品をランキング形式で紹介したり、そもそも商品件数を非表示にしたりなど「お客さんが迷いにくくする」施策を実施することで、成約率が改善するケースが多々あります。

澤田 前述の通り、JINSにも元々「メガネの選び方」ページがありました。しかし、どんなに選び方を丁寧に説明したとしても、ユーザは数ある商品の中から自分でメガネを探す必要があります。そのため「結局どれにしよう?」と迷いやすかったんです。 その点、おすすめ商品診断であれば「商品を素人の自分が選ぶのではなく、商品に詳しいプロが選んで薦めてくれる安心感の疑似体験」ができるメリットがあります。 つまり、蓄積された接客ナレッジをデジタル化し、商品検索体験の一部として取り入れることで、診断ツールは納得感あるコンテンツとなり、ユーザの購買行動を促せる可能性がありますよね。

垣内 そうなんですよね。なので、商品点数の多いECサイトであれば「おすすめ商品診断」は作るべきだと考えています。自分たちでもできそうか?など、悩んだらぜひ私たちに一度ご相談いただきたいですね。