2021.06.21

対談

目指すは「80点のDX」 – 社員発でDXに取り組むエムエスティ保険サービスの事例

目指すは「80点のDX」 – 社員発でDXに取り組むエムエスティ保険サービスの事例

対談者の紹介

エムエスティ保険サービス株式会社
企画部 DX推進担当 今 拓弥

2010年2月、エムエスティ保険サービス株式会社(名古屋)入社。三菱UFJ銀行から保険ニーズのある取引先の紹介をうけ、保険を提案する新規担当に従事。2014年10月、MSTリスクコンサルティング株式会社に出向。グローバルに展開する企業の日本本社に対して、海外保険一元管理やグローバル保険プログラムを提供。その後、国内PFI事業(応札支援)、再生可能エネルギー(プロファイ支援)、設備設置業(安全支援)の保険コンサルティングなどに従事。2019年4月にエムエスティ保険サービスに帰任し、2020年10月、企画部DX推進担当。前職は独立系総合保険代理店(設立5年目)での唯一の損害保険担当。

エムエスティ保険サービス株式会社
企画部 DX推進担当 石橋 宏之

2009年10月、エムエスティ保険サービス株式会社入社。営業として埼玉、東京都内の中堅中小企業を担当し、損害保険、生命保険の販売に従事。2018年4月、東京都内の大手企業担当。メガソーラーの保険組成、海外売掛債権の保全、賠償、サイバーリスク保険のグローバルプログラムを推進。2020年10月、企画部DX推進担当。前職は某大手総合人材サービス会社。

エムエスティ保険サービス株式会社
企画部 DX推進担当 片岡 賢司

2013年4月、エムエスティ保険サービス株式会社入社。2016年4月、MSTリスクコンサルティング株式会社出向。再エネプロジェクトのリスクコンサルティング/保険媒介。現在は洋上風力プロジェクトに主に推進。Fintech企業の新規事業に関する保険スキーム開発。ブローカーとして新規事業の後押しとなる保険開発に従事。2020年4月、エムエスティ保険サービス企画部DX推進担当を兼務。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威

株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」の立ち上げ、その後取締役に就任。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を立ち上げ、所長に就任。現在、 研究所所長および取締役CIO(Cheif Incubation Officer)として、DXコンサルティング、新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど長期目線での事業開発の責任者を務める。

「3名の自発的な提案」により発足したDX推進チーム

垣内 まずはエムエスティ保険サービスさまの会社や事業について、伺ってもよろしいでしょうか?

片岡 はい。弊社は法人・個人向けに、損保や生命保険を販売する保険代理店です。BtoBを中心とした保険代理店の中では、国内最大級の規模となります。

垣内 御社は、色々な保険代理店や、その業務を買収されているんですよね?

片岡 そうですね。「担当者が少ない」「高齢化に伴い保険事業を手放したい」といった企業や保険代理事業を、これまで数百社ほど買収しています。買収するとなると、各企業の顧客と契約の確認が必要です。この契約確認にすごく工数がかかるのが課題でした。また、数百社の事業を合併した結果、現場の業務フローが会社・事業ごとに異なり、複雑になっていたのも課題でした。

垣内 この2つの課題を解決するために「業務のDX」をすることが、今回私たちがお手伝いさせていただいた内容ですね。ちなみに、3名が所属するDX推進チームは、どのような経緯で発足したのでしょうか?

片岡 私たち3名が意気投合し、経営層に対して自発的に「DX推進チームを作りたい」と名乗り出たのが発足の経緯です。もともとは社内イベント等での交流を通じてお互いのビジョンに共感し「会社を変えよう」と結束しました。

垣内 普通はトップから「DXやるぞ!」と指示されてしぶしぶDXに取り組む企業が多い印象です。御社のように、社員からのボトムアップでDXチームが発足するケースは非常に珍しいと思います。

片岡 DXを通じて、会社のメンバーがお客さまサービスに直結しない作業に割く時間を減らし、より働きやすくなればと思うんです。その結果、生産性の向上にも繋がったら理想ですね。

DXはツール導入でも魔法の杖でもない。地道な現場の業務理解から

垣内 DX推進チーム発足後、最初はどのようなお取り組みをされていたのでしょうか?

石橋 最初はDXに関する情報のインプットやツールの導入を通じて、DXを進めようとしていました。ですが、WACULさんに「現場の業務をデジタル化するためには、まず業務理解から進めるべき」とアドバイスいただいてからは、現場の業務を理解することに舵を切りました。

垣内 ツール導入から入るのは、DXあるあるなんですよね。「DX頑張るぞ!」となって、真っ先にツールを検索する企業は多いです。ですがDXはツール導入でもなければ、魔法の杖でもありません。ツールは目的を達成する手段の一つで、まず大事なのは現場をしっかりと知ること。そのための泥臭いインプットなんです。

石橋 当時この言葉を言われてグサッときたことを覚えています(笑)。ですが、おかげで道を踏み外さなくて済みました。

「現場の業務理解」に舵を切ってからは、垣内さんが現場へのヒアリングを実施してくださいましたよね。

垣内 はい。現場のご担当者さまと複数回のオンラインMTGを実施し、普段の業務でどんなことをしているのか、ヒアリングさせていただきました。

DXと言うと「最先端のAIを駆使!派手な施策を実施!」のようなイメージを描いていた部分もあったので「地道な活動の重要性」を学ばせて頂きました。

垣内 「派手さ」や「AI」などの印象をもとに施策を進めようとした結果、ツール導入などの「方法論」に目が行き、多くの企業がDXに失敗しています。地味でも業務内容や現場を理解しないと、DXは始まらないんですよね。

垣内 数百社もの買収により無数の業務フローができたように思われていましたが、ヒアリングしてみたら、実際はほとんどの部分が同じ業務でした。整理していくと、数パターンの業務フローにまとめられましたね。

業務のフローチャート化により現場が何をしていたのか共有されたので、社内ではかなり喜ばれました。そしてフローチャート化した結果、「この工程はデジタル化できるのでは?」という業務が見つかったんですよね。 ただ、整理されたとは言え、ケース・バイ・ケースで細かい業務フローは異なります。そのため現場からは「完璧にデジタル化することなんて不可能ではないか?」という意見もありました。

目指すは80点のDX。最低限デジタル化できる業務から着手

垣内 そこで私たちが提案したのが「100点満点中80点のDX」です。「100点のDX(=数百社すべての工程のDX)」を目指すのは難しいので「80点のDX(=大部分の会社に共通する工程のDX)」を目指そうと。

いきなり完璧なデジタル化を進めるのではなく「80点のクオリティでもDXを進めよう」と明確に旗を立てることにしたんですよね。

垣内 はい。完璧にデジタル化しても、必ず運用は変更になるし、そのたび重厚長大なシステムを組むのは非効率です。なのでイレギュラーが発生する前提で、80点でも最低限デジタル化できる箇所を洗い出しました。 100点を進めようとすると、完璧を目指しすぎてDXが一歩も進めません。大事なのは一歩目を踏み出して変化し始めることなので、80点でもとにかく進めることが大事なんです。

「80点のDXを目指そう」と主張したおかげで、現場とDX推進チーム、双方の認識のズレや不満も出なくなりました。最初から満点を目指さないので、現場の期待値も上がりすぎず「まずはやってみよう」と思ってもらえたんです。

片岡 WACULさんに整理していただいた業務フローのうち、まずは最も進めやすい箇所からDXを始めました。具体的には、以下の2つですね。

  1. 新規顧客のヒアリングを「エクセル」から「Web入力フォーム」に変更
  2. 保険の更新の確認を「電話」から「SMS」に変更

石橋 変更自体はシンプルな内容ですが、社内には「電話で丁寧にヒアリングすること=おもてなし」という文化がありました。また、慣れたルールの変更は一時的とはいえ現場に負荷がかかりますし、直接お客様と接している分「お客様は変更を嫌がるのではないか」などの不安も浮かびます。なので一部のメンバーからは反対意見もありましたね。

垣内 そうですね。なので御社の場合は、まずは小さくても短期で成果を出すことを目指す「クイックウィン」の考え方でDXをご提案しました。 ヒアリングも、業務フローの変更も、作成するアウトプットも、どれも最低限でおこなう。そうすることで現場の負担も減りますし、少しでも結果が出れば社内の信頼を得られます。そして結果的にそれがDX推進につながるんです。

社内の反対はあったにも関わらずDXが実現した理由

垣内 弊社から見ても、エムエスティ保険サービスさまのDXはかなりうまくいっている事例です。DXで重要な「現場や業務内容の理解」もうまく進められています。 ただ世の中では、進め方が正しくても、社内の反対に押し切られる・予算が下りないなどで挫折してしまうケースも多いです。この点、御社はある程度の反対はあったにも関わらず、乗り越えてDXを実現しています。なぜDXを実現できたのか、御社から見た理由を伺えますでしょうか?

片岡 やはり「100点満点中80点のDX」を掲げていただいたことですかね。「完璧を目指さず、できるところから着手しよう」とハードルを下げたことで、現場から「とりあえずやってみよう」と思ってもらえました。

石橋 「クイックウィン」の方針も良かったと思います。「とりあえずやってみよう」のノリで始めることができても、成果が出なければ途中で終わってしまいます。小さくても成果を出すことで、現場からの信頼を得られて「もっと変えていきたい」との言葉をもらえました。

WACULさんのような「外部の人」がプロジェクトに入ることも理由の一つだと思います。既存のカルチャーにとらわれない外部の人が、数字とロジックで施策をガンガン進めたのが大きかったなと。特に大企業や当社のような歴史の長い企業では社内の力学やカルチャーが根強いことが多いので、外部の存在がより重要になるかと思います。

石橋 あとは、WACULさんは常に具体論で話を進めてくださったことも、スピード感を持ってDXを進められた要因かと思います。例えば、WACULさんは「購入率を上げましょう」といった抽象的な総論ではなく「このフォーム消すけど良い?」などの具体的な提案をくださいました。 「購入率を上げよう」と言われて嫌がる人は存在しませんが、このような総論で議論は進みません。具体的な施策を提案することで、初めて「進めてください」や「いや、そこはちょっと……」などの意見を引き出せるので、着実にDXを進めることができました。

垣内 ありがとうございます。弊社から見た成功要因もお伝えすると、やはりDX推進チームの3人が強く意志を持って進めたのも大きいと考えています。弊社として「DXの定石や方針策定、実行」は進められますが、最終的な成功は「DX担当者がいかに強い意思を持って会社を動かせるか」に左右されます。「現状うまく回っている現場の業務」を変革するのは、それだけ難しいことなので。 これからも御社の思いにお応えできるよう、弊社もサポートさせていただけければと思います。