2020.07.15

対談

大企業を動かす「データ文化」 – パナソニックが現場から推進するDX事例

大企業を動かす「データ文化」 – パナソニックが現場から推進するDX事例

対談者の紹介

パナソニック株式会社 デジタルマーケティング推進室
筒井 亮介(つつい りょうすけ)

1986年生まれ。立命館大学卒。新卒でITベンチャーの開発職を経験し、その後メーカー、金融業界にてマーケティングを経験。2017年5月にパナソニック株式会社に入社。
全社横断組織であるデジタルマーケティング推進室にて国内B2Cビジネスのデジタルマーケティング推進を担当。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威(かきうち ゆうい)

1984年生まれ。東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」の立ち上げ。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を立ち上げ、所長に就任。
現在、 研究所所長および取締役CIO(Cheif Incubation Officer)として、新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど、長期目線での事業開発の責任者を務める。

デジタルマーケティング推進室の業務内容は?

垣内 筒井さんの所属する「デジタルマーケティング推進室」は、どんな業務を行う部署なんですか?

筒井 パナソニックは7社の社内カンパニー制を敷いています。それぞれ独立しての経営・事業を進めており、ツールやノウハウなどカンパニーごとにバラバラでした。これを全カンパニーでシェアし合うことができれば、幅広い知見を得ることができます。
そのため、僕たちはデジタルの力で効率化できるところを全カンパニー横断的にお手伝いする感じです。いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進める部署であるとも言えます。

垣内 パナソニックのような大きな会社のデジタルマーケティング部分を横断的に見るのって、知識や経験が豊富に必要だと思います。実際、全社を横断的に見ることができる筒井さんのような「デジタルマーケティングのスペシャリスト」の存在って他の大手企業でもほとんど聞きません。御社内でも筒井さんのような方を増やしていこうという動きもあるんですか?

筒井 まず、私自身が周りに助けられてばかりなので、そんなすごい人間だとは言えないです…ただ、普段からデジタルマーケティングに特化して業務を担当しているので、そこで得られた知見は、積極的に社内に展開していきたいと考えています。こちらからもなるべく声掛けはしていますが、少しでも会社のデジタルマーケティングに役に立ちたいと考えているため、気軽に連絡や相談していただけたら嬉しいと思っています。本当にいつでも待っています(笑)

社内におけるデジタル推進の障壁は?

垣内 デジタルマーケティング推進室は、全カンパニーのデジタル部分を横断的にみるということで、御社においても少し珍しい立ち位置ですよね。社内の他事業部から見たらどんな存在なんでしょうか?

筒井 部署の発足が2017年4月とまだ浅いんですが、名前に「デジタルマーケティング」と付くと、やはり社内の注目度は高いですね。事業部間の橋渡し役や、課題解決・業務推進のサポート、全社的なデジタルによる効率化を期待されていると思います。

垣内 まさにいま進めているDXですね。これまで御社のDX推進をWACULで支援してきましたが、最近の事例である「リフォームショップ紹介サービス」のWebサイト改善プロジェクトについてお話いただけますか?

筒井 「リフォームショップ紹介サービス」とは、オンライン上でリフォーム需要のある顧客を呼び込み、工務店さんにご紹介するというサービスです。コンサルティング会社の中でも、競合他社や類似企業などのWeb戦略・戦術・データに詳しく、業界の横断的な知見を持つWACULさんにお手伝いをお願いしました。

垣内 一緒に改善を進めていく上で、色々なカンパニーや部署が縦割りで分断されていて、取りまとめが大変そうに見えました。実際、10回くらいのミーティングを経てようやく施策が動き出しましたね(笑)いつもこれくらいの時間がかかるんでしょうか?

筒井 そもそも、大規模な組織だと、社内の承認プロセスがどうしても長くなってしまいやすいです。事業部に提案しても、他のプロジェクトが走っているとそちらが優先となるなど、調整に時間がかかってしまったことがありました。Web業界だと、提案をもらってから2週間もしたら「とりあえず走らせよう」となるところが多いですが、そういう文化がないところでは、なかなか理解してもらうのが難しいですね。

垣内 とはいえ、関係各所にじっくり説明できたことでプロジェクトが成熟していった部分もありましたね。

筒井 やっぱり人が多いので、ステークホルダーに対する説明と説得をしっかりしていかないといけないんですよね。人を巻き込まないと、目の前の成果が出たとしても、今度は横展開がうまくできなくなってしまうので…。

垣内 長期的な視点で見ると、まさにそうですね。では、人を巻き込むには、何が一番のキモになるんでしょうか?

筒井 泥臭いのですが、担当者との“ウェット”な人間関係をきちんと築くことですかね。まずは個人として「こいつは逃げないな」「こいつは最後までやり抜くな」と信じてもらうこと。そうすれば、何か新しいことに挑戦した時にも協力をしてもらいやすくなります。社内でも社外でも、仕事をしていく上で一番大切なのは信頼だと思います。

組織を動かすのはデータ

垣内 スタートするまでに時間はかかりましたが、無事プロジェクトが動き始めました。プロジェクトを前に動かすのに重要な要素は何だったと思いますか?

筒井 やはり客観的なデータですね。感情論や過去の経験だけで動かそうとしても、その感情や経験は人によって違うのでプロジェクトが進みにくくなります。
この点、WACULさんは業界の他社の取り組みや、Googleアナリティクスと連携した実際のデータをもとに施策を提示してくれました。すべてデータをベースにした提案であるため、皆が納得しやすかったですね。個人的には一切の無駄を排除して、最速でプロジェクトを回し、横展開していきたかったので助かりました。

垣内 「とにかく速く動く」という筒井さんの考え方は、一緒にいてすごく伝わってきました。他にもプロジェクトが進み出した理由を挙げるなら何でしょうか?

筒井 WACULさんが的を射た提案をしてくれた点が本当に大きいですね。ほかにも色々な会社から提案を受けるのですが、中には問題点がずれていることもあります。例えば「とにかくまずはUIを直しましょう」という話から入るなど、それで本当に数字が変わるのか?と疑問に思う提案もありました。

垣内 実際、意味があるUIの変更ってファーストビュー改善くらいじゃないですか?あとはだいたい何かやった気がするだけですね(笑)

筒井 たしかにおっしゃる通りなんですが、本当に常にこんな調子でしたね(笑)
WACULさんは、客観的な根拠やデータをもとに「改善点はここです」「それは無駄です」と言い切ってくれます。なかなか言い切ってくれる会社って少ないんですよ。担当者も「あれほど忌憚のない意見を言ってくれる人はいない」とびっくりしていました。実際、客観的でフラットな意見を伝えてくれるので、プロジェクトを前に進めるための大きな刺激になりました。

垣内 私自身は「数値的な成果を出す提案」だけをするように心がけているので、あくまで参考になれれば良いと思っています。プロジェクトの推進剤になれば最高です。私自身は嫌われても大丈夫なので、社内調整や最終判断などは筒井さんのようなパランス感覚のある社内の方に任せます(笑)

DXとは、全体最適とは

垣内 今回「リフォームショップ紹介サービス」のWeb部分の改善のみをお手伝いしました。ただ、そもそもDXというのは全体最適の話のはずです。今回のケースだとショウルームのオペレーション改善まで行えて初めて「DX」だと思います。なので本当はオフラインにおけるショウルームのオペレーション改善までできたらよかったなと思いました。

筒井 そうやりたいですね。そこまでやった方が絶対おもしろいので、ぜひ進めていきたいところです。

垣内 ここからは御社ではなく一般的な話なのですが、通常DXをやろうとするのってWeb部門の人が多いじゃないですか。Webの担当者だけだと、視点が狭いので全体最適まで考えられないんですよね。だからツールを入れたり、UIを直して「DX」は完了したと思い込んでいるところばかり。

筒井 そうですね。結局Web周りだけの改善になると、オフラインでの顧客接点に影響はなく「全体としてみると、思ったほどの効果がでなかった」という声もよく聞きます。

垣内 同じような相談をよく受けます。特に企業規模が大きくなるにつれて、本当に多い話ですよね。
個別の組織と進めるだけであれば、データを見せて、泥臭く説得して、という流れでいいと思います。ただ、それで全社的に変えられるわけではない。Web以外も含めた「全体最適としてのDX」を進めるとなると、DXを推進する部署が大きく権限を持つか、事業部全体がデジタルリテラシーを上げるか、どちらかしかありません。
そうすると、かなり大変そうなのですが、大企業で全体最適をするにはどうしたらいいと思いますか?

筒井 手っ取り早いのは、デジタルリテラシーの高いトップに、旗振り役になってもらうことでしょうね。でもなかなかそうはいかない。そうなると、現場を変えて賛同者を集めるほかないですよね。まずはデータを使いこなせる人材を育てる。そして、データに基づいた意思決定を行い、現場にもその文化に慣れてもらう。
弊社の話にはなりますが、その育成までは十分に取り組めていないのが現状ですね。

垣内 御社の規模で、周りに納得してもらいながらその活動を進めるのは大変そうですよね。

筒井 そうですね。ただ、新型コロナウイルスの影響もあって、DXのトレンドはもう無視できないところまで来ています。ここで社内全体として、どれだけ真剣に取り組めるかが鍵だと思います。
この流れに乗り、デジタルを通して何ができるのかを社内でしっかり検討して、経営層・現場に賛同者を増やしていかなければいけないと思っています。

垣内 筒井さんは今後、どのようにしていこうと考えていますか?

筒井 今後はまず各カンパニーのうまくいっている文化や取り組み、成功体験を横展開すること。さらにそのノウハウやデータを本社側に蓄積していく仕組みを作っていきたいですね。今後、大企業であることのアドバンテージがどんどんなくなると思います。そのとき、自社内での大量のデータの蓄積があり、常に複数のカンパニーでの最新の情報が共有されている。そして集められた豊富なデータをもとにした施策を行い、常にPDCAを回す。そんな有機的な組織が出来上がっていたら厳しい市場でも生き残っていけると思います。