2020.03.18

対談

ECで売上だけ見るのは危険? – O2Oのユーザ行動を解明したプラザスタイルのDX(デジタルトランスフォーメーション)事例

事例のサマリ

  • 実店舗での売上が大きいビジネスでは、ECが単なる「売り場」ではなく「カタログ」として機能し、実店舗での売上に大きく貢献している
  • ECに訪れるユーザの大半は「ファン」で、毎日/毎週アプリで新着商品を網羅的にチェックする。気になる商品があれば、スマートフォンの「スクリーンショット」で保存し、後ほど実店舗で購入する
  • 「ファン」は高頻度で実店舗に通っているため、わざわざ送料のかかるECで購入しない。売り切れ可能性が高い商品や、Web限定商品であればEC購入もあり得る
  • ECのKPIを「売上」だけにするのは危険。ECのビジネス貢献を過小評価してしまううえ、PDCAが改悪に繋がりかねない。「スクリーンショット数」「店舗在庫確認数」「1人あたり商品PV数」等も同時に追うべき
  • O2Oのユーザ行動を明らかにするには「ユーザ行動観察調査」のコストパフォーマンスが高く、推奨できる。リアルとデジタルのデータを繋ぎたがる企業は多いが、時間と費用が嵩むうえ、いざデータが揃っても集計は困難

対談者の紹介

株式会社スタイリングライフ・ホールディングス
プラザスタイル カンパニー
カンパニーエグゼクティブ 佐藤 匡史(さとう ただし)

1963年生まれ。自身のデザイン会社を14年間経営の後、2011年株式会社スタイリングライフ・ホールディングス傘下の通販会社、株式会社ライトアップショッピングクラブに入社。WEB発信のメンズセレクトショップJACKET REQUIREDを立上る。その後同社EC部門の責任者を兼務。2017年同HDの小売事業「PLAZA」を運営するプラザスタイルカンパニーに転籍。マーケティング担当のカンパニーエグゼクティブに就任。テクノロジー推進室室長兼務。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威(かきうち ゆうい)

1984年生まれ。東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」の立ち上げ。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を立ち上げ、所長に就任。
現在、 研究所所長および取締役CIO(Cheif Innovation Officer)として、新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど、長期目線での事業開発の責任者を務める。

プロジェクトが始まったきっかけは?

垣内 初めはオンラインストアの「KPI」が不明確という話からスタートしましたよね。売上が実店舗に比べてかなり小さいので、他に担うべき役割があるんじゃないかという仮説をお持ちだったところでご相談いただいたように記憶しています。

佐藤 そうですね。プラザはあくまで「実店舗での小売り」がメインです。それと比べるとどうしても「ECの売上」は小さいと言わざるを得ません。
しかし売上は分かりやすい指標なので、当然このKPIで評価されてしまいますが、果たしてそれで本当に良いのか?という悩みがありました。

垣内 プラザさんと同じように、実店舗の売上が大きい小売やメーカー企業では、皆さん同じような悩みを持っていますよ。ECを始めたきっかけは「なんとなく」で、そのまま売上が伸びず、EC担当者の肩身はどんどん狭くなっていくというよくあるパターンです(笑)
皆さんECのKPIが売上というのに違和感を感じつつも、どうしたら良いか分からないという状況に陥っています。

佐藤 まさにプラザスタイルも同じような状況でした。先ほどお話したように、オンラインストアの売上が極端に小さい。その原因を「客単価が低いのでは?」「品ぞろえが悪いのでは?」「送料のせいかも?」などなど考えても証明するデータもなく、実証できていませんでした。売上も小さく、目的も曖昧な中ですので、当然大胆な投資を判断することもできず、悩んでおりました。

垣内 弊社に初めてご相談いただいたきっかけも「まずはオンラインストアのデータをちゃんと把握したい」でしたよね。

佐藤 はい。投資判断しようにも、社内を説得できる材料が何もない状態でした。そのためシステム更改など、これ以上Webに投資していいかわからなかったんです。本当に何も意味がないのであれば、EC自体を閉鎖したほうがいいのかもしれないと考えたりも。ただ、ECのPVは右肩上がりで、当時も数百万のアクセスがありました。
実店舗からも「ECを見て来店するお客さんがいる」という声を聞いていましたので、何かしら役に立っているのではと思っていました。そこからECは実店舗への送客装置で、チラシやショールームのような役割を果たしているのではないかと考えるようになりました。ただ数値的なデータがなく「ECを見て実店舗に来ている」ことが、取り立てるほどよくあることなのかどうか分からない状況でした。

垣内 これがもし本当に「ECが実店舗送客に効いている」のであれば、KPIがEC単体での売り上げだけにはならないですよね。これはファクトをきちんと取りに行く価値があると。そこで初めに取り掛かったのは、ユーザ行動観察調査※でしたね。

生のユーザ行動を見た結果は?

垣内 まずECに訪れているお客さんにアンケートした結果、プラザのことが大好きなファンしか来ていないことがわかりましたよね。しかもそのファンの行動は皆さん同じで、毎日アプリを開いて最新商品をチェックしにくる。その中で、気に入った商品があれば、最寄りの店舗に在庫があるかを確認し、スマホでスクリーンショットを取る。売り切れなさそうな商品ならそのまま店舗に行くし、限定品なら店舗に電話して取り置きしてもらうこともありました。ECでは購入をしていないんですよね。

佐藤 これは、社内でもとても衝撃的でした。ECは商品を買う場所だと思っていたので、お客様がECで「商品探し→商品情報をスクリーンショット→店舗に電話」という動きをするなんて、まったく想像をしていなくて。しかもそれが皆さん同じ動き。

垣内 5名全員、見事に同じ動きでしたね(笑)

佐藤 「商品をECで見ても買わずに、実店舗で買う」という動きを、調査したお客様全員がやっている。こんなこと、プラザスタイル社内の誰も思いもしなかったですよ。あまりの衝撃に「みんな聞いてくれよ」「みんな見てみろよ」と、どんどん社内で話題になりまして。次のユーザ行動観察調査のときには、別室モニタールームが満員になるほどでした。

垣内 そのあと、最初の5名は30代以上に偏っていたので、プラザさんのメインの客層の1つである20代女性なら行動が違うのでは?という話になって、追加で5名の調査を行いましたが、それも見事に同じ行動でしたよね。私としては経験論的に「3~5名調査すればユーザの行動のパターンは見える」と知っていましたが、結果は合計10名全員のユーザがほぼ同じ動きでした。 ファンは高頻度でお店に通っているので、わざわざ送料を払ってまでECで買う必要はありません。ただどんな商品が入荷するのかは毎日見たいし、売り切れそうな商品が出れば最速で店舗に足を運びたい。とはいえ、毎日店舗には通えないのでECを見に来る。このような動きでした。

佐藤 ファンが毎日のように見てくださるのは本当に嬉しいことです。それにしても、本当にユーザの動きについては年齢層ごとの違いがほとんどありませんでしたよね。

垣内 そうですね。違いはほとんどありませんでした。あえて特徴を挙げるとすれば、20代は価格感度が若干高いというくらいですね。彼女たちは少しでもポイントがもらえるのであれば、積極的にキャンペーンに応募します。またECは送料がかかるので使わないの一点張りであるという特徴もありました。 ただ、全体で見てみるとそもそもファンはみんな毎週店舗に通っているので、ECで買うユーザは稀です。ECで買われる商品の例としては、店舗ですぐ売り切れる商品、Web限定商品、持ち運びに困る商品などに限定されます。

KPIはどのように決まったのか?

佐藤 実際の「ユーザ行動パターン」を発見できた結果、一気にプロジェクトが進みました。まずすぐにKPIが定まりましたね。ECに来るユーザは商品を見て在庫確認をし、気に入った商品をスクリーンショット。その後に実店舗にいくということがわかったのでKPIは「商品閲覧数」「在庫確認数」「スクリーンショット数」となります。

垣内 小売やメーカーなど、売上の大きい実店舗と併用されるオンラインストアは、KPIを「Webの売上だけにしない」ことが重要です。まずは店舗への送客度合いがざっくりわかる、ユーザ行動の関所となる数字をKPIに設定すれば十分です。佐藤さんの挙げてくださった「商品閲覧点数」「在庫確認数」「スクリーンショット数」などは典型的なKPIでしょう。
店舗連携のKPIを立てようとなると、多くの企業がまず店舗データとECデータを繋ぐことから初めてしまいますが、これは間違いです。データを繋いでも、どうせうまく使えないので害悪ですらあります(笑)データを集めすぎると人間が数字に見えてきてしまい、ユーザの行動が逆にみえなくなることが多いんです。コストも大きくかかった挙句に「結局どうしたらいいの?」となる現場をたくさん見てきました。
一方で、5名~10名程度のユーザ行動観察調査で一人一人しっかり向き合えば「購買までどういう行動をするのか」が目で見てわかります。購買までの具体的な行動がわかれば、今度は売上につながるKPIの設定がしやすいですよね。

佐藤 確かに、ECのデータ(オンライン)と全国にある実店舗のデータ(オフライン)とを連携したくなる気持ちは凄くよくわかります。ただ、それを全部集めて綺麗に連携したとしても、今度情報が多すぎて処理しきれないことは想像がつきますね(笑)

垣内 KPIを決めた後は、ユーザ行動を踏まえてUIを改善していきましたね。この工程でもユーザ行動観察調査の結果が役に立ちます。 例えば、元々のアプリにあった「店舗のアクセス情報」を調べられる機能は不評でしたね(笑)ラベルが紛らわしく間違って押してしまう人が多いのも問題でしたが、何よりファンは自分の生活範囲の店舗をすべて知っているため、この機能が一切不要だということが分かりました。アプリと言えば「屋外でも使うから、アクセス情報が必要」という固定観念は全くの幻想です。アプリを自分のスマホに入れてくれる人はほとんどがファン。ファンであれば店舗の所在地は知っていて当然の情報です。 アプリに求められていたのはカタログ機能です。新着商品をひたすらだらだら見やすくすることと、気に入った商品を保存しやすくすることが最も重要です。またせっかくKPIを定めたので、その「スクリーンショット」という保存行為を計測できるようにすることも大切ですね。 改めて言いますが、これらの事実は3~5名程度のユーザを見るだけですぐ分かります。大量のデータを集めてカスタマージャーニーなんて作らなくても良いのです。

生のユーザを見て社員も変わった?

佐藤 改めてですが、WACULさんのユーザ行動観察調査は社内でも大きな大きな衝撃でした。そもそも、プラザスタイルの社員の多くは自社のブランドの大ファン。ともすると「PLAZAのことは、自分たちが一番わかっている」と考え、客観性の低いことがないとは言えません。結果、社員それぞれの思いや解釈に違いが出て、施策レベルで同じ方向を向けないことや、互いにどうサポートしていいかわからないという問題が起こることもありました。 そんな中、ユーザーが実際にどう考えているのか、どう行動しているのかを検証すること。つまり、まずは「ちゃんとユーザーを見る」という当たり前のことを徹底する経験はとても良かったと感じています。 そこで得られたデータは、全員が共通認識として持つことができるので、全社として同じ方向を向きやすいですし、同じ前提で話ができるので社員同士のサポートなどもしやすくなりました。 「まずユーザとちゃんと丁寧に向き合う。」 この当たり前のことがWACULさんに頼んだ結果で、一番インパクトが大きかったことかもしれません。

最後に

今回の事例は「店舗と比べて売上が小さく、運用コストばかりかかる小売系のEC事業が、実は店舗創客に大きく貢献していた」という話です。ECはファンのための「Webカタログ」として機能しているため、KPIもUI改善の方針も通常のECとは異なります。

これは小売やメーカー系のECではよくあるパターンです。まずは現状サイトにアクセスしているユーザが、何を期待し、どのような行動をとっているのか明らかにすることが何より大切です。


コンサルティングおよびPoCのご依頼について

WACULでは、デジタルマーケティングのアップデートを目的とした、データドリブンかつデザインシンキングのアプローチによるコンサルティングを行っています。

WACULはデジタルマーケティングのPDCA支援ツールの「AIアナリスト」を約31,000サイト(2020年3月現在)に提供しており、そこから得られた膨大な知見とビッグデータから生まれる集合知をもとにしたマーケティング戦略の立案が可能です。また、ユーザー観察調査など、デザインシンキングのアプローチも取り入れています。データだけにとどまらず、ユーザー観察と掛け合わせることで、深い洞察と戦略への落とし込みを強みとしています。
O2O(Online to Offline)など、企業の皆様のデジタルトランスフォーメーションを推進するプロジェクトの実績も多数ございます。

コンサルティングやPoCのご相談は、こちらまでお問い合わせください。