2021.06.09

対談

複雑な業界構造でも、できるところからKPIを策定 – 楽天投信の”潔癖すぎない”デジタルマーケティング事例

複雑な業界構造でも、できるところからKPIを策定 – 楽天投信の

対談者の紹介

楽天投信投資顧問株式会社
営業部 ベラミー 万里衣(べらみー まりい)

ロンドン大学キングス・カレッジ(King’s College London)経営学部卒業。イタリア商工会議所やファッション業界で広報・マーケティング業務を担当。2020年1月より楽天投信投資顧問株式会社に入社し、主にマーケティングを担当。

投資信託メーカーとしてデジタルを活用したマーケティングに従事。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威(かきうち ゆうい)

株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」の立ち上げ、その後取締役に就任。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を立ち上げ、所長に就任。現在、 研究所所長および取締役CIO(Cheif Incubation Ofcer)として、DXコンサルティング、新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど長期目線での事業開発の責任者を務める。

メーカー⇒販売代理店の集客文化がなかった投信業界

垣内 まずは御社のお仕事について、伺ってもよろしいでしょうか?

ベラミー 弊社は投資信託を開発する投信会社です。弊社が開発した投資信託は、証券会社を通じてお客様に販売されます。

垣内 イメージとしては「投信会社=パナソニックなどのメーカー」「証券会社=ビックカメラなどの販売代理店」に近いですよね。

ベラミー そうですね。家電などの他業界においては、メーカーから販売代理店に集客しているのに、投信業界ではその文化がなかったのが課題でした。

垣内 パナソニックなどのメーカーはあまり自社で売り場を持ちません。売り場はあくまでビックカメラなどの家電量販店です。なので、メーカーは家電量販店に集客をしつつ、店内でも自社商品を選んでもらえるようにCM等の広告施策を実施しています。 同様にして、楽天投信などの「投信会社(メーカー)」は自社で売り場を持ちません。売り場はあくまで楽天証券やSBI証券などの「証券会社(販売代理店)」です。ただ、投信会社は証券会社に集客をしておらず、さらには証券会社に来た人に対して自社商品を選んでもらうための施策も実施していませんでした。

ベラミー なので「投信業界でも、投信会社(メーカー)から証券会社(販売代理店)に広告などを用いて集客し、自社の商品を選んでもらおう」というのが、今回実施した施策ですよね。

垣内 はい。投信業界には根付いていない文化でしたが、他の業界ではうまくいっているのでやってみよう、というチャレンジでしたね。

KPIが曖昧&業界構造が複雑なため、支援できる会社が少なかった

垣内 私たちがお手伝いする以前は、マーケティング施策としてどのようなことを実施していたのでしょうか?

ベラミー 新聞や雑誌の広告などオフラインで「認知獲得」系のマーケティング施策を実施していました。オンラインでも施策を打ちたいと考えていたのですが、Webの活用目的がうまく定まらず、KPIも曖昧だったんです。そこで専門家の力をお借りしようと、当時は10社ほどのWebマーケティング会社にお話を伺っていました。

垣内 お話を聞いて、いかがでしたか?

ベラミー 実は、Webマーケティングからお断りをされてしまったんです。KPIが曖昧だったため「改善したい指標が曖昧だと施策の提案が難しい」などの理由ですね。提案いただけたとしても「とりあえず認知拡大を目指そう」などの先の展開がイメージしにくい内容でした。

ベラミー また、「メーカーである投信会社が投資信託という商品を作り、販売代理店である証券会社で売る」という複雑な業界構造への理解の難しさも、支援してくださる会社が少ない理由として大きかったですね。 最終的には「自社サイト」ではなく「他社サイト」に誘導しなければなりませんし、誘導した後も「他社サイトの中で自社商品を選んでもらう」ことまで考えなければなりません。この業界構造を理解し、売れるまでのストーリーを描ける会社がWACULさんでした。

まずは顧客情報を得るための「Web広告でのメールアドレス獲得」

ベラミー Web施策を開始しようとしたものの、私たちは顧客情報を持っていませんでした。お客様と接するのは販売代理店である証券会社のため、顧客情報が証券会社にしかなかったんです。 顧客情報がなかったので、お客様に自社商品を選んでもらうためにはどんな施策が効果的なのか、確認も検討もできません。施策が出せないので、何をKPIにおけば良いかもわかりませんでした。 そのため、まずは自社でも顧客情報を持つために、顧客との接点を作ることから始めることとなりました。

垣内 ただ、投信会社が直接顧客とやり取りするのはレアケースですし、上手くいく保証がありません。そこで、まずは低コストでリスクを抑えて始められるWeb広告を実施することとなりましたね。

ベラミー はい。もともとWACULさんに提案いただいた施策は、「楽天連携」と「Web広告」の2種類でした。「楽天連携」とは、楽天グループ内の他のサービスにおける会員様情報を活用する施策です。例えば、楽天市場や楽天カードといった他サービスの会員様へメールや特別オファーなどを送付するなどですね。 ただ、楽天連携は社内での申請や確認などの調整が大変で、すぐには実施できなかったんですよね。

垣内 そうですね。そういった意味でも、まずは「楽天グループ内調整の必要がなく低予算でスモールスタートできるWeb広告+LP」から始めました。

投資のハードルを下げる「楽天ポイント」で始める投資信託

垣内 今回、LP制作から弊社がお受けしましたが、制作したLPをお見せしてもよろしいでしょうか?

ベラミー はい。実施したLPはこちらです。

ベラミー いきなり「お金で投資を始めよう」と言うのではなく、始めやすい「楽天ポイントで投資を始めよう」と訴求したことが、このLPのポイントですよね。

垣内 はい。お金ではなく楽天ポイントを採用した理由は「投資は危険だと怖がっている人でも始めやすくするため」です。 投資信託を購入したことがない人は「投資で損をする」と聞くと「100万円の投資が0円になる」と感じてしまいます。このような考え方だと、リスクを恐れて投資を始めすらしません。

ベラミー ですが実際の多くの投資信託はよっぽどハイリスクな商品以外、損しても「100万円の投資が90万円になる」くらいのリスクです。

垣内 そうなんですよね。「大損はしないから、気軽に始めてもいいんだ」と感じてもらうためにも、まずは一度投資を経験してもらいたい。そのために「とりあえず今持ってる楽天ポイントで投資を練習しませんか?」と訴求しました。

メールアドレス取得後の展開は?

ベラミー ただ「楽天ポイントで投資を始める」だけだと、楽天証券に集客しているだけで、「自社商品が売れやすくなること」に繋がるわけではありません。そのため、自社でも顧客情報(メールアドレス)を獲得して、顧客との接点を持ち「楽天投信こそがおすすめなんだよ」とメール配信を通じて伝える必要があります。

垣内 なので、次のフェーズは「ポイントで投資を始めた後、自社商品の購入までに至ったかどうかをメールによるアンケート等で確認する」です。自社商品の購入に繋がっているようであれば、その情報をもとに次のフェーズの施策を考えます。このフェーズごとに、KPIを一つ一つ検討していく、という流れですね。

ベラミー 今回の「Web広告で楽天ポイントによる投資を始めてもらう」というフェーズでは「メールアドレスの登録数」をKPIにおいていましたね。今後は、会社資産として楽天グループの顧客情報があるので、こちらを活用すべきだと考えています。メールアドレスも取得しているので、最終的にはアップセルなどLTV改善にも取り組めたら理想ですね。

LPからの登録率5%。期待を上回る成果を実現

垣内 実際「楽天ポイントで始める投資信託」の広告を実施した成果を伺ってもよろしいでしょうか?

ベラミー LPに来訪した人の登録率が5%でした。もともと「ポジティブに見て3%くらいの予測です」と垣内さんからお聞きしていたので、期待を上回る数値でしたね。楽天ポイントを持っているというところまでターゲットを絞ったことも効いたのではないかと思っております。

垣内 広告経由なら1~2%でも良いくらいなので、かなり上手くいった印象ですね。

垣内 投信会社(メーカー)が主体となって自社商品を販売した、業界では目新しい事例になったかと思います。ただ、「楽天ポイントで始める投資」は、あくまで最初の一歩です。次はポイントではなくお金を使って投資にチャレンジしてもらいたいですし、最終的には商品のアップセルも目指していけたらと思いますね。

ベラミー 今回のお取組みを通じて「Webの施策に対して潔癖になりすぎてはいけないな」と感じています。Webは成果が測定できるがゆえに、KPIに直結できない施策は優先度を下げがちです。 しかし結局は、販売代理店(証券会社)でメーカー(楽天投信)の商品が買われれば問題ありません。このゴール達成に向けての段階・マイルストンを刻んで、できることからKPIに落とし込んでいくのも、一つの方法だなと感じました。

垣内 私も同感です。テレビCMだってKPIに落とし込めずとも、アンケートを取って「できる範囲で」計測しています。Web活用に迷っているメーカーさんは「KPIにとらわれず、ゴールから逆算して施策を仮説立て、施策に合わせてKPIを決める」という進め方も検討してみる価値はあると思いますね。