2022.04.08

対談

定性調査の手法を見直し、ユーザーのリアルな姿を明らかにする – 読売新聞社のユーザー調査事例

定性調査の手法を見直し、ユーザーのリアルな姿を明らかにする - 読売新聞社のユーザー調査事例

対談者紹介

国友美江氏
読売新聞東京本社メディア局オンライン部次長

広告局で調査、マーケティングなどの担当を経て、読売新聞オンラインの立ち上げから携わり、2019年1月よりオンライン部。会員登録促進などプロモーションを担当。

小倉剛氏
読売新聞東京本社メディア局オンライン部主任

メディア局でのヨミウリ・オンライン(現読売新聞オンライン)の編集担当や事業局でのマーケティング担当を経て、2020年10月からオンライン部で読売新聞オンラインの運用に関わる。現在は会員の行動把握や定着に関する施策を担当。

株式会社WACUL
取締役 垣内 勇威

東京大学卒。株式会社ビービットから、2013年に株式会社WACUL入社。改善提案から効果検証までマーケターのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」を立ち上げる。2019年に産学連携型の研究所「WACUL Technology & Merketing Lab.」を設立し、所長に就任。

現在、研究所所長および取締役として、インキュベーション事業を牽引。新規事業や新機能の企画・開発および大企業とのPoCなど長期目線での事業開発の責任者を務める。

サマリー

  • インタビュー調査には適切な課題と仮説が必要。今回のWACULとの取り組みでは、インタビューを行う前に、まずは課題抽出と仮説・検証項目の設計を実施。
  • 質問者が聞きたいことを直接的に聞いてしまうと、ユーザーは身構えた回答や質問者の期待に応える回答をしがち。今回は、実際にユーザーがサービスを利用しているところを見ながら、その行動の意図を聞き出す「行動観察」を実施。忖度なきリアルなユーザー利用シーンを発見できた。
  • 量とカテゴリの多いコンテンツを保有し、幅広くそれらのコンテンツを読んでいるロイヤルユーザーも多数存在する読売新聞オンライン。多様なコンテンツをより見やすくするためのUIに刷新。
  • 実は存在していた「登録したけど、使わなくなってIDやパスワードがわからなくなった」という声をリサーチから発見。現在は、スピーディに対応策を講じている。
  • インタビュー調査の結果や、WACULからのフィードバック、リサーチした一般的なUIなどの資料は、読売新聞オンラインに反映するだけではなく、他の様々な事案においても、説得力ある資料として社内調整のために活用している。

定性調査で重要なのは実行だけでなく、検証する課題を設計すること

垣内 まずは、皆さんが所属されている部署について教えていただけますでしょうか。

国友 私たちは読売新聞東京本社のメディア局オンライン部というところにおりまして、読売新聞オンラインの会員登録を促進したり、デジタルサービスのコンテンツの全体的な管理統括をしたりする仕事を主に行っております。

垣内 今回は主にこの読売新聞オンラインの登録促進についてお手伝いさせていただきました。読売新聞オンラインに登録すると、どのようなサービスが利用できるのでしょうか?

国友 紙の新聞の購読料に追加料金なしで、オンラインにて記事コンテンツを楽しめるサービスになります。紙の新聞そのままのデザインで記事が読める『紙面ビューアー』を利用できるほか、お得なポイント・プレゼントサイトの『よみぽランド』も利用できるようになるのが特徴です。

垣内 読売新聞オンラインに関しては消費者を4つに分けられて “会員登録していない人” “読売新聞オンラインの「一般会員」(新聞を購読していなくても一定のサービスを無料で利用できる)に登録している人” “紙の新聞を購読しているが読売新聞オンラインの「読者会員」(すべてのサービスを利用できる)に登録していない人” “紙の新聞も購読していて読売新聞オンラインの「読者会員」にも登録している人”がいるんですよね。この読売新聞オンラインに登録してもらうことで、読売新聞社側にはどのようなメリットがあるんでしょうか?

国友 読者の方のメールアドレスや属性を知ることができるので、単に一律でお知らせを送信するような施策ではなく、読者の属性に応じた情報をお届けすることができるようになります。

垣内 あとは接触時間が増えれば、紙も含めた解約のリスクが減ったりなんかもしますもんね。今回は、どのようなきっかけから、私達をパートナーとして選んでいただいたのでしょうか。

国友 元々読売ジャイアンツの案件をWACULさんが進めてくださっていて、社内から推薦を受けました。これまで読者調査を外部に依頼したこともあったのですが、委託先が行うのは調査だけで、課題の抽出や整理は自分たちで行うという形でした。そもそも調査で検証する課題からご提案いただいたのは他の会社との違いだと感じました。

小倉 あとは、当時は登録者数も90万人台で推移していて、なんとか100万人に到達するアイデアが欲しいと思っていました。

ユーザーの姿を明らかにする、 “まずは観察する” 定性調査のコツ

垣内 このプロジェクトの目玉でいうと、顧客の定性調査を沢山行いました。インタビューの他にユーザーが実際にサービスを触っている姿を見る“行動観察”も行いましたが、実際にやってみていかがでしたか?

小倉 これまでもアンケートやインタビューは自分たちで実施してきたんですけど、実際にユーザーの方々がサービスを利用しているのを見てみると、「よく使われているはずだ」と仮説を立てていた機能を使ってくださっていることを確認できましたし、「この機能どこにあるんだろう」と迷っている姿を見ることができて、「ユーザーってこんな人たちなんだ」という解像度が上がった気がしました。

垣内 これまでのインタビューと違っていた驚きはありますか?

小倉 これまで行ってきたインタビューだと、我々が聞いた質問に対して優等生的な、こちらが答えてほしいと思う回答を答えてくれているような実感があったんです。でも今回は、「とりあえずいつもどおりサービスに触ってみてください」とユーザーに委ねるアプローチをしてくださって。いつもより忖度のないユーザーの姿を知ることができました。

垣内 ユーザーに意見や感想を直接聞いちゃうと、「かっこつけよう」と思ってしまう場合もありますから、実際のユーザーの利用方法とは違う発言を引き出してしまうこともありますからね。だけど、実際にサービスに触ってみてユーザーがとったアクションは真実なので。そこから「なんでそうアクションしたんですか?」という質問をすることで、リアルな気持ちを深堀りできます。

国友 こちらとしては、探しているコーナーが見つからないユーザーに対して「あんなに目立つ場所に置いているのにどうして気づかないんだろう」と思うこともありました。こちらが「当然わかるだろう」と思ってしまうことも、実はそんなに伝わっていないものだと考えるべきだと思うようになりましたね。

垣内 デジタルはどうしても視野が狭くなるので、かなり意識して見つけやすい動線に置いて目立たせるようにしなければなりませんね。

小倉 「こういう人をロイヤルユーザーっていうんだ」という人にも出会えました。「よみぽランドのクイズは○時と△時と✕時に更新されます」「スタンプ2倍になるのは金曜日です」というのを全部覚えてくださっていて。

垣内 そういうのもインタビューの喜びですよね。ただ、連載コーナー名を全部言えるくらい読売新聞の記事を好んで読んでくださっていて、アプリでどの記事を見せても「これ好きです」というような人もいらっしゃったにも関わらず、アプリ内ではそのコーナーを見つけられていなかった事例があり、もったいないと感じることもありました。私が見せてあげると「これずっと見たかったんです」とおっしゃってくださって。

国友 読売新聞オンラインは、コンテンツの量だけではなく、ゲームやプレゼントなどコンテンツの種類も多いので、情報を整理するのが大変でした。今回の定性調査で本当に色んなコンテンツを見ていただいていることがわかったので、全てを目立つ場所に置きたいんだけども、デザイン上そういうわけにもいかない。 ですが、幅広い情報をどう掲載していくかに関しても、「ニュースの見出しを見ている流れでほかのコンテンツに気づく導線をつくっては」など非常に具体的にご提案もいただきました。

垣内 情報の載せ方以外にも、そもそも今回、読売新聞オンラインが登録されない理由として、「そもそもスマートフォンやパソコンの扱いに慣れていない方が多いのではないか」という仮説がありましたが、そういった人たちへの施策は考えられているのでしょうか。

国友 定性調査と併せて実施した定量調査(読者会員へのアンケート調査)で一番衝撃的だったのが「登録したけれど使わなくなったのはIDやパスワードがわからなくなったから」という人が多かったことでした。ですので、そうした方に再び利用していただくために、長期間ログインしていない人に「あなたのIDはこちらです。パスワードを確認してください」というお知らせをお送りしたり、登録の手引を冊子でつくって希望者に送ったりしています。登録方法をご紹介する講座のようなものも行っています。 登録の仕方がわからない人に、何度も「登録しましょう」と言うよりも、基本的なところから登録方法を伝えるほうがいいということがわかりました。

社外の声を取り込むことで、社内の課題解決もスムーズに

小倉 調査はもちろんですが、社外の人とプロジェクトを進めることで理解できたことも沢山ありました。例えば、新規登録フローに関して、他社と比べてハードルが高いことはわかっていたんですが、今回他社の事例もよくご存知の垣内さんが入っていただいたことで「一般的な会員登録フローはこうですよ」と教えてくださって、自分にとっても「使いやすさ」を改めて考えるきっかけになりました。

垣内 社外から見たわかりにくい部分で言うと、すでに新聞を購読して読売新聞オンラインに登録している人を「読者会員」と呼んでいらっしゃったのですが、社外から見ると実はわからない事例などありましたね。

小倉 社内では馴染みすぎてしまっていて、わかりにくさに気づきにくくなっていましたね。現在は、「読者会員はこちら」という表現はなくしています。そういった改善も含めて、登録者を増やすことにつながったんじゃないかなと思います。

垣内 ありがとうございます。そのほか、調査結果を活用できたシーンなどありましたか?

小倉 垣内さんが社外のプロとして、「一般的にはこうしている」という事例や調査結果を出していただいたことで、今回だけではなく、他の事案での社内の調整においても、価値のある説得材料を作ることができたと思っています。

国友 調査の中でニーズを検証した「家族会員」もスタートすることになりました。新聞を家族みんなで読んでいる方に向けて、一つのIDでご家族も読売新聞オンラインを楽しんでいただけるように動いています。その施策の目標も、調査の結果をもとに設計しました。

垣内 様々な方法で調査結果を使っていただいてありがとうございます。今後実施していきたい施策はありますか?

国友 今回定性調査を経て100万人の登録者を達成しましたが、今後はその登録者をどう定着させていくかという課題について検討していきたいと思っています。具体的にはメルマガの内容改善などですね。サービスのデザイン改善も進めています。

垣内 メルマガやサービスのデザインなど、またいつでも気軽にご相談ください!


取材日:2022.02.02