2024.01.24

2024年 デジタルマーケティングの論点

2024年 デジタルマーケティングの論点

株式会社WACUL代表取締役の垣内と申します。今年も当社が考える、デジタルマーケティング業界や担当者の方が2024年に考えておくべきテーマについて『デジタルマーケティングの論点』としてまとめましたので、ぜひご笑覧ください。

2023年はChatGPTを世界中の人間が弄くりまわした1年でした。デジタルマーケティングにおいても、これほど劇的な変化をもたらしうる存在は、2007年に登場したスマートフォン以来です。
今年はこのテーマに絞り、デジタルマーケティングの業務の多くを生成AIが担うようになった際に、引き続き人間が担うべき仕事として何が残っていくのかについて考えていきます。

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人間の仕事には、何が残るのか?

生成AIが進化することで最も大きく変化するのは、言うまでもなく、人間に求められる仕事のスキルとスタンスです。生成AIは人間らしく振る舞うことに強みを持つため、これまで人間が担ってきたデジタルマーケティング業務の大部分はAIに取って代わられることでしょう。
実際に、広告運用では人が行うよりもAIに任せた方が費用対効果が改善しますし、SEOやニュースリリースの文章作成についてもAIが素案を書いてくれます。バナーや写真素材などのクリエイティブ作成もAIが得意とする分野です。今はまだ単純な社内作業の置き換えが中心ですが、近い将来にはより複雑かつ社外に向けたコミュニケーションにもAIが使われるでしょう。

もしあなたが、AIに仕事を奪われた後から、焦って仕事のスキルやスタンスを変えようとしても、時すでに遅しです。今すぐに「人間らしい」仕事に専念するための準備が必要です。

生成AIが苦手とする「人間らしい」仕事は、「データが手に入らない仕事」「個性に寄りそう仕事」「責任を取る仕事」の3つです。これらの仕事は、今後も人間が担うべき仕事として残る可能性が高いでしょう。

人間の仕事 (1) - データが手に入らない仕事

当たり前ですが、AIは学習元になるデータがなければ、答えを導き出すことができません。過去のデータがない、またはデータの収集が難しい領域は、引き続き人間の仕事として残る可能性が高いでしょう。逆に言えば、データさえ揃えてしまえば、人間の仕事でなくすこともできます。「データが手に入らない仕事」には、下記のようなケースがあります。

  1. 過去から予想できない非線形な判断 (≒そもそも世の中にデータが存在しない)

  2. 広い分野のデータを用いる判断 (≒複数の部署や企業にデータが散在している)

  3. データが集まりづらい環境での判断 (≒営業担当がSFAにデータを入力しない)

人間の仕事 (2) - 個人に寄りそう仕事

人間一人ひとりの個性に寄りそう仕事は、AIが苦手とする領域です。個人ではなく、大きな集団の傾向を踏まえるだけなら、AIでもデータを集めて対応できます。しかし、一人ひとりがどのような文化・道徳・心理背景を持ち、どのように感じて行動するのか、個性に寄りそった学習をするまでは非常に困難です。「個人に寄りそう仕事」には、下記のようなケースがあります。

  1. 相手の気持ちを想像する(例:クレーム対応など)

  2. 長期的な人間関係を構築する (例:マネジメントなど)

  3. 所属社会の ”空気” や “美意識” を感じとる (例:広報チェックなど)

人間の仕事 (3) - 責任を取る仕事

万が一の時に「責任を取る仕事」は、少しの間だけ人間に残るでしょう。人間もAIも等しく間違えますが、AIに責任を取らせることはできません。場合によっては人間の方が間違える可能性が高かったとしても、責任の所在を明確にするためだけに、人間に対応させるのです。
生成AIの活用事例でも、「社内」利用はOKだが、「社外」利用はNGという話をよく聞きます。「社外のお客様とのコミュニケーションで、間違いがあったら大問題だ」という発想から、AIの社外利用には慎重な企業がほとんどです。これは、厳密にいえば「間違い」を恐れているのではなく、「責任を取れない」ことを恐れているのです。

今後、AIが間違いを犯したとき、責任の所在をどのようにすべきかが整理されれば、AIが担える仕事が飛躍的に増えるでしょう。

人間のマーケターに求められる職能は?

デジタルマーケティングに関連する業務で、上記の仕事を進めるにあたって、特に重要な職能を3つご紹介します。この3つのいずれかを持ち合わせていれば、デジタルマーケティングの現場で職を失うことはないと、私は断言します。

(1) 社内調整力

マーケティング業務で最も必要とされる職能は「社内調整力」です。

「社内調整」というと、地味で面倒な仕事のように思われがちですが、最もビジネスに貢献する尊い仕事だと、私は確信しています。

例えばBtoB事業では、営業担当との対話でSFAへの入力を促し、マーケティングオートメーションで商談チャンスのある案件を連携します。BtoB事業に限らずマーケターは、経営者、ブランド担当者、広報担当者、工場担当者などとの対話を通じて、コンテンツを集めて世界に発信する仕事です。マーケターは他部門と関わらなければ、何一つ仕事を進めることができません。「社内調整」から安易に逃げてはならないのです。

「社内調整」は非常に面倒だからこそ、それを忍耐強く続けられる人材は希少価値が高くなります。長年積み重ねた「社内調整」の経験・スキル・人脈は、AIに真似することができないばかりか、マーケターとして活躍できる場面を増やしてくれます。
さらにAIの活躍の場が増えるほど、AIにインプットする「データを集める」仕事も増えます。ここでもデータを所有する部門との「社内調整」が欠かせないのです。

(2) 広域専門性

広域専門性とは、平たく言えば「浅くて広いデジタルマーケティング周辺の知見」です。

広告、SEO、SNSなど個別領域の専門知識は、世の中に広く公開されており、AIもそれらを学習することができます。今でもChatGPTに質問すれば、的確な答えが返ってきます。もちろん高度に専門的な知識は、一部の研究者しか持ち合わせていませんが、そんなレベルが一般的なマーケターに求められることは稀でしょう。もし必要なシーンがあれば、研究者に問い合わせれば良いだけのことです。

マーケターに求められるのは、幅広い分野での基礎知識と実務経験です。マーケティングの現場では、限られたデータから、仮説ベースで意思決定することがほとんどです。浅くて広い知見から、人間ならではの想像力を働かせることで、正解に近い判断を導き出すのです。

しかしこの「広域専門性」を培うには、並々ならぬ努力が求められます。普段から新しい知識を収集し、自ら手を動かして経験値を増やさなければなりません。例えば、今この時点でChatGPT (または類似の生成AI) に課金したことがなければ、その人はマーケターとしての資質がないといっても過言ではありません。バズワードを馬鹿にするのは構いませんが、その真偽を、自ら確かめていないというのはただの「怠惰」でしょう。

「広域」さは、広ければ広いほど良いと言えます。デジタルに閉じず、マーケティング全般、ビジネス全般、ひいては文化や自然科学にまで精通していれば、より精度の高い判断ができるはずです。

(3) ビジョン共感性

ビジョン共感性とは、経営者が唱える長期方針を理解し、他者に伝えられる力です。

マーケティングの現場に立つと「経営者が何を考えているか分からない」「自分が好きになれない商品を売るのは嫌だ」「他部門と目指す方向がすりあわない」など、全社共通のビジョンが機能していないことに対する不平不満をよく聞きます。

ビジョンが機能していないという問題は、言うまでもなく経営者側に責任があります。しかしマーケティングの現場からもこの課題に向き合うことはできます。マーケターは社内からコンテンツを集めて、社内外に流通させることができます。経営者の話を注意深く聞き取り、自分の中でしっかりと理解・共感したうえで、社内外に分かりやすく発信していけば、ビジョン不全解消の一役を担えるでしょう。

マーケターは、顧客とのコミュニケーションでも、社内の様々なメンバーとの調整でも、矢面に立って仕事をします。ビジョンに深く共感しているマーケターは、会社の求心力を強める屋台骨になりえるのです。


上記3つの職能は、いずれもAIが苦手とする業務であり、今後も人間に求められる可能性が高い仕事です。マーケターとして価値ある仕事を長く続けたい方は、いずれかに向き合う必要があるでしょう。

またこれらの職能は、組織やコミュニティに所属することで培われます。人間関係を通じた対話によって得られる職能だからこそ、AIにはなかなか真似できないのです。マーケターとして成長したいのなら、人間関係の面倒ごとから逃げてはいけません。
一方で、昨今は、リモートワークの普及や、フリーランスの活躍が進み、独立する人が増えています。人間関係を煩わしいと考えて、自由に生きたいと思う気持ちは分かりますが、限定的なスキルセットしか持ち合わせていない「自称専門家」の職業寿命は長続きしません。

人材確保のために企業が準備すべきことは?

ここまではマーケター視点で、AIと役割分担するために、獲得すべきスキルとスタンスについて書いてきました。最後に、企業の人事視点で、上述の優れたマーケターを維持 / 獲得するために、何を準備すべきかについて考えていきます。

上記を読んでお分かりいただけたかとは思いますが、AIと共存できるマーケターの職能はいずれも希少価値が高く、人材確保は難航を極めます。特に給与水準を引き上げづらい業界や中小企業では、思うような人材を確保できなくなります。さらに悪いことに、デジタルマーケティング領域の人材不足は年々ひどくなるばかりです。この課題を解決するには、企業側の抜本的な改革が必要だと考えます。

(A) 他部門 / 外部専門家による評価を取り入れる

強いマーケターを社内に確保し続けるには、上述した(1)~(3)の職能を正しく評価しなければなりません。特に「(1)社内調整力」と「(3)ビジョン共感性」はかなり目立たないため、正しく評価することが困難です。

これらの職能でも、目に見える成果が出るところまでやり切れば、正しく評価してもらえるでしょう。しかしマーケターの仕事は、時間がかかる地味なものが多く、例えばインフラやデータの整備など足元を固めるプロジェクトばかりやっていると、全然評価をしてもらえません。

逆に、成果には全く繋がらない、派手なだけのプロジェクトが評価されてしまうことも多々あります。評価する側がデジタルマーケティングの知識を持ち合わせていないと、「なんとなく詳しそうな人物」に丸投げして、評価までブラックボックス化してしまうことが少なくありません。

社内調整力やビジョン共感性については、他部門からの評価を取り入れることが有効です。また専門性の高い業務を評価できる人材が社内にいないなら、外部の広域専門家に評価してもらうという手段もおすすめです。

直近のデジタルマーケティング人材市場は、ほんの少し業務をかじった程度で、引く手あまたという困った状況です。こうした環境下ゆえに、上述した(1)~(3)の職能を持つような人材は、ヘッドハンターや転職で昇給した元同僚から、日常的に甘言を浴びせられています。なるべく早く評価方法を見直し、給与水準を改善しなければ、人材の確保は難しいでしょう。

(B) フルタイム正社員という神話を忘れる

デジタルマーケティングの専門家を、新たに「正社員」として雇用することは非常に困難です。成果を出せる人物は、忍耐強く同じ会社に残り続けますし、転職するにしても給与水準の高い企業に行ってしまいます。私の周りの企業でも、「正社員」のマーケターを募集し続けて、気が付けば数年経ってしまっていたという企業が少なくありません。それほどにマーケターとは、正社員採用が難しいポジションだということを、まずは認識する必要があります。

「正社員」を諦めたとして、「業務委託」や「フリーランス」を探せばよいかと言えば、それも短絡的すぎます。正社員と同じように「フルタイム」で働ける業務委託は、誤解を恐れずに言い換えれば、かなり暇を持て余している人材です。スキルが不足しているばかりか、フリーランスとして自由に生きたいという気持ちばかりが先行し、「社内調整力」や「ビジョン共感性」が乏しい人材である可能性もあります。

冷静に考えてみれば、デジタルマーケティングには「フルタイム」や「正社員」にこだわらなくても良い業務がたくさんあります。初期戦略策定のフェーズは、短ければ1か月間、長くても半年間程度で済むため、単価の高いコンサルタントや業務委託に依頼しても良いでしょう。広告運用やSEOなど専門性の高い業務は、定期的なメンテナンスとご意見番としてだけ、低稼働で委託してもよいはずです。

フルタイムの正社員には上述の(1)~(3)の職能を求めて、しっかりと評価すべきです。一方で、それ以外の業務は切り出して、スポットの業務委託にお願いすればよいのです。狭域で専門性の高い業務は、いずれAIに奪われる可能性も高い業務です。フルタイム正社員で抱えるリスクがあることも認識すべきです。

以上が、当社の考える、デジタルマーケティング業界や担当者の方が2024年に考えておくべきテーマです。ぜひ年始に、経営やマーケティングに関わる皆さんでこうした論点を共有し、自社がどのように行動していくのか、方針と今後のアクションをすり合わせておくとよいでしょう。

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