研究レポート・対談

2026.09.02

生命保険会社のマイページ評価レポート2026 〜契約者との数少ない接点を、売上に接続できていない

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生命保険業界の主要13社が運営する既存契約者向けマイページを調査した結果、主要動線上で「アップセル提案」をおこなっているのは1社のみ、「請求勧奨」をおこなっている企業はゼロだった。そもそもマイページに担わせるべき役割の意識自体が業界全体で希薄である。特に次の2項目はいますぐ取り組むべきだ。

主要動線(契約内容確認の動線)上に

  • 文脈にあったアップセル提案を組み込む

  • 「実は請求できるかも?」と気づかせるコンテンツを置く

調査背景

各社のマイページは「契約者しか使わない」「契約者からしか見えない」という特性から、業界横断で比較される機会が乏しい。そのため改善が進みにくく、各社それぞれが理想とするマイページを展開している現状にある。

そこで当調査では、大手生命保険会社13社の実際のマイページ上での行動を独自のユーザー調査によって観察。デジタルマーケティングの定石やUIの基礎が踏襲されているか評価することで、生保マイページの現在地と課題点を明らかにした。

生保マイページのユーザー行動

生命保険は一度契約したら付き合いの長い商品だが、マイページを開くのは「人生で数回」にとどまる。来訪目的の大多数は、「契約内容確認」だ。その他、「住所変更・受取人変更等の手続き」「入院・手術発生時の給付金請求」のために訪れる程度である。

つまりマイページに来る契約者のほとんどは「自分の契約内容がどうなっているか確認したい」だけ。その主目的を達成するまで、脇道にはなかなか逸れない。仮に新商品のバナーを置いたとしても、それが主要動線から外れていれば、視界にすら入らないのである。

マイページに担わせるべき役割

生命保険会社が既存契約者向けマイページに本来担わせるべき役割は、次の3つである。

  • アップセル:保障の最新化と追加契約の推奨(がん保険・死亡保険の追加など)

  • 請求勧奨:「請求できるのに気づいていない」給付金への気づきを提供

  • コスト削減:契約内容確認や住所変更等の郵送・電話対応をWebで完結

しかしながら、業界の実態は「そもそもこれらの役割でマイページを運用する意識自体が希薄」であり、「アップセル」「請求勧奨」機能を実装済みの企業は極めて少なかった。そのため本レポートでは、これら3つの役割に取り組めているかに加え、契約者が目的の操作にたどり着くためのユーザビリティも重要な評価軸として組み込んでいる。

アップセル

アップセルのアプローチは大きく2種類。1つは「追加契約」で、加入済みの保険にがん保険や死亡保険などを新たに加えるもの。もう1つは「保障の最新化」で、最新医療に対応したプランや家族構成の変化にあわせたプランへ変更するものである。

動線設計のポイントは、第一に「主要動線上に文脈を合わせたアップセル提案を置く」こと。 例えば、契約内容詳細の終わりに「加入中の保険だと、カバーしきれていない病気があります」といったオファーを置けば、見直しのきっかけになる。

同じく、「主要動線上に新商品リリース・保障対象拡張のお知らせを置く」ことも有効だ。

ほかにも、「ライフステージの変化をキャッチできる仕組み」を持てると理想的だ。 マイページから能動的に見直し検討へ進む契約者は稀であり、売上につなげるためには人間による後押しが必要である。

ライフステージの変化(結婚・出産・住宅購入・退職等)をキャッチできるページを設け、マーケティングオートメーション等で訪問を検知し、営業が架電する仕組みまで整えられれば、アップセルは加速するだろう。

請求勧奨

日帰り手術の費用など、請求できるのに契約者が気づいていない給付金は毎年多く発生しており、業界としても「請求勧奨の徹底」が長年の課題として取り組まれている。

そのためマイページに求められる役割の一つは、契約者に対して「実は請求できるかも?」という気づきを提供することだ。

しかし残念ながら、「給付金請求」メニューがあるだけでは、そもそも請求対象だと気づいていない人には響かない。「日帰り手術・通院◯回以上も給付金対象になります」「ここ1年で入院・手術しましたか?給付金を請求できるかもしれません」といったテキストやバナーを主要動線上に配置することがポイントである。

コスト削減

契約内容詳細をマイページ上でワンタップ確認できる状態を整えれば、契約者は疑問をWebで自己解決でき、営業担当やコールセンターへの問い合わせを一定量削減できる。

より大きなコスト削減効果があるのは、住所変更・受取人変更等の保全手続きのWeb完結である。動線が明快でフォーム入力の負荷が低ければ、契約者側の手間削減と会社側の応対工数削減の双方に、明確な効果が見込める。

基本のユーザビリティ

上記3つの役割は、いずれもマイページのユーザビリティが担保されていなければ機能しない。契約者が目的の操作にたどり着けなければ、どんな提案を用意しても届かないからだ。

なお、本調査では本来できていて当たり前のユーザビリティを「加点」ではなく「減点方式」で評価している。50点を初期値に、以下6項目に該当するたびに減点していった。

なお、業界全体で頻繁に見られるログイン施策(ログインポイントの配布・過度なプッシュ通知など)は、本レポートで加点対象にしていないだけでなく、UI設計としてはむしろ減点相当だと考えている。契約者が数少ない訪問機会で本来の目的にたどり着けるかどうかが、マイページUI設計の要諦である。

採点結果

ここまでに紹介したマイページの役割や設計ポイントを採点項目へと落とし込み、生命保険業界の主要13社が運営する既存契約者向けマイページを100点満点で評価した。調査は2025年11月、モバイル環境で目視採点した。

なお、本レポートはあくまでマイページから目視で確認できる範囲を評価対象としている。メール・アプリ通知・LINE等でのアップセル提案や請求勧奨コンテンツの配信は評価対象外だが、実際にはメール等でカバーしている可能性はある。あくまで当レポートは、「マイページ上での取り組みが現時点でどこまで実装されているか」という切り口での評価としてお読みいただきたい。

全体平均は66.6点。カテゴリ別に見ると、応対工数削減対応(契約内容確認・保全対応のWeb化)はほぼ全社装備しており、業界標準として定着している。

一方、売上に直結するアップセル提案については、主要動線上で提案できている会社はアフラック生命の1社のみ。提案自体はその他に5社確認できたが、主要動線外であることがほとんどだった。

同じく、請求勧奨コンテンツを主要動線上に置けている会社は13社中0社。給付金請求メニューはあっても「実は請求できるかも?」という気づきは提供できていない社がほとんどだった。

ユーザビリティの減点方式で見ると、13社の中にはっきりとした差が出た。トップのアフラック生命は-5点にとどまる一方、下位は-30点前後まで積み上がっており、契約者が目的の操作にたどり着けるかどうかで大きく明暗が分かれる結果となった。

以下、上位3社について特徴を紹介する。

上位企業の個別解説

1位:アフラック生命
アップセル動線を主要動線上に組み込んでいる唯一の会社。加えてユーザビリティも高水準に整っており、90点で単独1位となった。あとは「実は請求できるかも?」の気づきコンテンツを加えられれば盤石だ。

2位:第一生命

13社で唯一「請求できるかも?」の気づきコンテンツを部分実装している点で、他社をリード。ユーザビリティ面でも減点は中程度に抑えられている。メニューの一覧性を高められれば、より高得点が狙える。

3位:東京海上日動あんしん生命

アップセル動線を主要動線に部分実装しつつ、給付金請求後のステータス確認機能まで整えており、機能面での取りこぼしが少ない。ユーザビリティも減点10点に抑えられており、80点で3位に食い込んだ。

本調査の提言

今回調査した生命保険13社のマイページのうち、応対工数削減につながる「契約内容確認」「住所変更・受取人変更等の手続き」のWeb化は全社対応済みだった。一方、契約内容確認のためにマイページへ訪れたユーザーに対する文脈に沿ったアップセル提案は1社のみ、「実は請求できるかも?」と気づかせるコンテンツの提供は1社も実装していなかった。売上アップ・顧客本位業務運営のために、以下2項目はいますぐ取り組むべきである。

主要動線(契約内容確認の動線)上に

  • 文脈にあったアップセル提案を組み込む

  • 「実は請求できるかも?」と気づかせるコンテンツを置く

まずは「マイページに担わせるべき役割」を見直すところから始めてほしい。

WACUL 代表取締役 垣内のコメント

生命保険のマイページは、奇抜な施策を打ちにくいサイトである。

基本的には受け身で、契約内容確認や保全手続きをスムーズに完遂できるユーザビリティの高さが大前提となる。
一方で、数少ない顧客接点の一つとして積極的な活用もしていきたい。マイページにアクセスしたユーザに、営業担当からアクションするなど、コミュニケーションのトリガーとして活用すべきだ。そのためには、営業がどのようなトリガーを求めているかを把握し、それを取得できるようなサイト設計にしなければならない。
さらにメールやSMSを用いたCRMも連動させていくべきだろう。

人口減少トレンドで、白地の獲得が難しい生命保険業界において、既存顧客向けマイページの重要性は増していくはずだ。

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