研究レポート・対談

2025.03.31

Webサイトの「フルリニューアル」は売上を伸ばすために本当に必要か

Webサイトの「フルリニューアル」は売上を伸ばすために本当に必要か

Webサイトをフルリニューアルする場合、制作会社3社の平均費用は776万円。
一方、CVを伸ばすうえで有効な施策に絞って部分リニューアルする場合の平均費用は195万円と、約4分の1のコストに収まる。

調査に至った背景

「売上を伸ばすためにWebサイトをフルリニューアルしたい」という要望に対する違和感

「Webサイトを一新すれば、売上も伸びるはず」と考える経営者やマーケティング担当者は少なくない。特に「競合他社よりもデザインが古いから」という理由で、フルリニューアルを検討するケースをしばしば見かける。
弊社WACULは「AIアナリスト」を通じて約3万9千サイトのデータを分析してきたが、WebサイトのフルリニューアルがCV獲得に直結したケースは、実は少ない。むしろ既存ユーザーの離脱を招いたり、一時的なアクセス数の減少を引き起こしたりするリスクのほうが高いのである。

参考:Webサイトはリニューアルによって改善するのか?WebサイトリニューアルとCV・CVR向上の相関関係についての調査 より「調査サイト20サイト中、CV・CVRのいずれかが改善したサイトは3割。一方、改善しなかったサイトは7割」

CV数を増やし売上を向上させたいのであれば、フルリニューアルではなく、CVR改善に有効な箇所だけテコ入れする「部分リニューアル」のほうが確実だ。そこで今回は実在するBtoBのWebサイトを題材に、フルリニューアルと部分リニューアル、それぞれにかかる費用を算出。その費用対効果を比較・考察した。

WebサイトのCVを向上させる3つの重要施策

はじめに、弊社が有するCVR改善の知見の中から「BtoBのWebサイト*のCVを向上させる3つの重要施策」を紹介する。

*BtoCのなかでも、不動産販売や保険販売など「営業につなぐビジネス」の場合は同様の勝ちパターンが当てはまる。一方、オンラインで購入まで完結する「EC」などの場合は、当てはまらないケースも存在する。

1.主要ページからCVに誘導する

CVR改善の基本は「主要ぺージの改善に注力すること」にある。アクセス数が多いページ、くわえてFAQや製品情報など、明確に情報を求めているユーザーが訪れるページでは、すかさずCVへ誘導すべくCTAを設置しよう。
なお、CVにつながるチャンスを最大化するためには、ユーザーのさまざまな行動パターンに備えて、あらゆるぺージにCTAを設置することも有効である。

2.フォーム送信の心理的ハードルを下げる

CVの最終段階となるフォームは、成果を大きく左右する要素の一つだ。入力中の離脱を防止するために、項目を最小限に抑える、迷いにくい選択肢を提示するといった、ユーザーの心理的ハードルを下げる工夫が欠かせない。

また、プログレスバーで入力進捗を明示したり、入力内容の保存機能を設けたりすることもフォーム送信完了率を高めるうえで有効である。

3.コンテンツSEOに取り組む

能動的に情報収集しているユーザーをWebサイトに呼び込める「SEO対策」は、CVを伸ばす上で重要な施策だ。リライトなどメンテナンスは欠かせないものの、検索上位が獲得できれば、広告費をかけ続けることなく継続的な流入を見込むことができる。
SEO対策において大切なのは、検索エンジンに最適化されたコンテンツを作ることではなく、ユーザーにとって価値のあるコンテンツを作ることである。

WebサイトのCV向上にあまり効果のない5つの施策

逆に、多くの企業が取り組んでいるものの、労力の割に成果につながらない、あるいは成果がマイナスになる可能性のある施策を5つ紹介する。

1. アクセス数が少ないページのデザインを統一する

Webサイト全体の統一感を重視するあまり、アクセス数の少ないページまでデザインの統一を図ろうとする企業は少なくない。しかし、実際にユーザーの目に触れる機会の少ないページにまで工数をかけることは、費用対効果においてはマイナスである。

2. 全面的にデザインを刷新する

デザインの全面リニューアルは、既存ユーザーのユーザビリティを著しく低下させる可能性がある。そのため、「数年経って見た目が古くなったので新しくしたい」といった曖昧な目的なのであれば、安易に取り組むべきではない。

3. 全ページにCMSを導入する

「運用効率を高めるために全ページにCMSを導入したい」という要望を時折聞くが、導入・メンテナンスコストが高まるばかりでCV向上には直結しない。費用対効果を考えるならば、CMSは更新頻度の高いコンテンツに限定して導入すべきである。

4. 動画や図表を過剰に用いる

コンテンツを魅力的に見せるため動画や図表を多用する傾向があるが、特にモバイル環境においてはぺージの読み込み速度を低下させる原因になり、ユーザーのストレスにつながりやすい。視覚的要素は必要なものだけ取り入れるのが得策だ。

5. 多くのブラウザに対応しようとする

すべてのブラウザで完璧な表示を目指そうとすると、開発工数が肥大化する。一方、実際のアクセスログを見てみると、使われているブラウザは限定的であることがわかる。そのためブラウザ対応に過度なリソースを割くことは非効率だ。

リニューアルにかかる費用を実際に見積もってみた

フルリニューアル(全面的なデザイン刷新や全ページCMS導入)と部分リニューアル(主要ぺージのみ改修)はどれほど費用が異なるのか、複数の制作会社に見積もりを出してもらい比較をおこなった。

対象サイト

『Web担当者Forum』運営会社であるインプレス社協力のもと、サービスサイト「https://ad.impress.co.jp/」をリニューアル対象に設定。

Impress Media Guide

CVR改善に影響する主要ぺージは以下の4つと定義した。

トップページと問い合わせフォーム
各媒体紹介ページとよくある質問

見積もりパターン

見積もりはフルリニューアルの松プラン、最低限の部分リニューアルである梅プラン、その間の竹プランという3パターンに分けて算出。

見積もり3パターン

松プランは「全ページデザイン刷新」「全ページCMS導入」「SEO記事30本納品」にくわえて、フォームはフルスクラッチ指定、デザインは各ステークホルダ(社長や営業部長、広報責任者など)の合意形成必須とするなど、想定しうる最大の要件を盛り込んだ。
続く竹プランは、弊社が考える「BtoBのWebサイトのCVを向上させる3つの重要施策」を過不足なく盛り込んだ要件を設定。梅プランは、そこからコンテンツSEOを差し引いた最低限の部分リニューアルとした。

a. イチマルイチデザイン社の場合

101DESIGN(イチマルイチデザイン株式会社)は、ウェブサイト・ウェブアプリ・モバイルアプリ開発において、ユーザー目線の最適なUIUX設計及び開発実装までをワンストップで提供しています。

見積もり3パターン

イチマルイチデザイン株式会社は、ディレクター/UIUXデザイナー/エンジニア/QAエンジニアの稼働工数をベースに見積もりを算出。QAエンジニアをアサインしていることから、品質担保の取り組みがうかがえる。また、SEO記事については単価1.5万×30本であり、ある程度クライアント側でディレクションをおこなうことを前提としている。

フルリニューアルの場合、稼働工数はディレクター22人日、デザイナー30人日、エンジニア35人日、QAエンジニアは6.5人日。一方で部分リニューアルの場合、ディレクター8人日、デザイナー11.5人日、エンジニア12人日、QAエンジニアは2.35人日と、半減以下である。結果、梅プランは松プランの3分の1まで費用を抑えられている。

b. ユーティル社の場合

ユーティルは、ホームページ制作やシステム開発を行いたい企業と制作会社のマッチングプラットフォームを運営しています。年間5,000件のマッチング実績があり、IT・Webをより効率的に活用したい企業の支援を行っています。
サービスサイト:https://web-kanji.com

見積もり3パターン

3社中もっとも費用が抑えられていた株式会社ユーティルは、ディレクター/デザイナー/コーダー(マークアップエンジニア)/エンジニアの稼働工数をベースに見積もりを算出。

フルリニューアルの場合、ディレクター53人日、デザイナー22人日、コーダー11人日、エンジニア18人日を要する。一方で部分リニューアルの場合、ディレクター10人日、デザイナー10人日、コーダー6人日、エンジニア3人日と、工数は半減以下。
ディレクターの工数に大きな差が生まれているのは、松プランの場合「SEO記事制作」がここに含まれるからである。

c. 上場企業X社の場合

見積もり3パターン

納品時のトラブルを避けるため、どのぺージに対して何のアクションをおこなうか詳細に明記すべく、上場企業X社はメンバーの稼働工数ではなく「ぺージ数」をベースに見積もりを提出。一般的に後から工数や価格が膨れがちな制作案件で、そういった後からの増額などがないように丁寧に織り込んでの提示となっている。

フルリニューアルの場合、デザイン・コーディングの費用が上がるのはもちろんのこと、CMS込みのオウンドメディアパッケージ導入100万円、SEO記事制作180万円、くわえてCVR改善などのUI/UX観点でのチェック等を含むプロジェクトマネジメント費として約110万円をプラスオン。結果、部分リニューアルに比べると+880万円の見積もりとなった。

3社平均

松プランでWebサイトをフルリニューアルする場合、制作会社3社の平均費用は776万円。一方、梅プランで部分リニューアルする場合の平均費用は195万円と、約4分の1のコストに収まる。

以下、簡易的に費用対効果を算出してみた。
さまざまな算出方法が存在するが、今回は効果=「CVR改善によって増加するCVを広告費換算した金額」として計算した。

前提:月100件のCVを獲得&広告経由のCPAが3万円である場合

梅プランの場合、CVRが120%改善すれば3ヶ月で元が取れる。一方、CVR改善があまり見込めない、むしろ落ちる可能性もある松プランの場合、仮にCVRが120%改善したとしても回収には1年以上かかる。
また、「リニューアルによってCVあるいはCVRが改善しなかったWebサイトは7割存在する」という過去の調査結果を踏まえると、回収不可、すなわちサイト制作費がそのまま赤字になる可能性も非常に高い。

よってWebサイトリニューアルにおいて第一に「費用対効果」を求めるのであれば、やはりフルリニューアルではなくCVR改善に特化した「部分リニューアル」を選択するほうが賢明である。

本調査の提言

Webサイトをフルリニューアルする場合、制作会社3社の平均費用は776万円。一方、CVを伸ばすうえで有効な施策に絞って部分リニューアルする場合の平均費用は195万円と、約4分の1のコストに収まる。
つまり少ない投資で売上を最大化することを目的とするならば、「フルリニューアル」はベストな選択肢ではない。
CVR改善に有効な箇所だけテコ入れする「部分リニューアル」も、ぜひ検討してみてほしい。

インプレス 取締役 法人営業局 局長 清水氏のコメント

Webサイトのデザインが古くなってくると、つい全面リニューアルを検討したくなります。しかし、目的や優先順位を整理せず、社内のコンセンサスも曖昧なまま進めてしまうと、結果的に多くの時間と費用がかかることになります。

さらに、技術担当・マーケティング担当・営業担当など、関係者間の意思疎通や合意形成に伴うストレスも発生しがちです。そのうえで、必ずしもPV増加やコンバージョンにつながるとは限りません。

今回、3社の見積もりやコメントを拝見し、「何のために、何を変更し、何を目指すのか」を明確にすることの重要性を改めて実感しました。

イチマルイチデザイン 代表取締役 河東氏のコメント

顧客企業様のビジネスにおいてなんらかの課題を解決するにあたり、その改善点のひとつとしてウェブサイトやアプリケーションのUIUX改修ということが、弊社では基本的な案件発生フローとなります。

そもそもサイトの技術的な側面で刷新を希望している(なんらかの技術的な原因でサイト自体の脆弱性など解消できないなど)場合はフルリニューアルなどは考慮必要かと思われますが、解決したい課題がはっきりとしている場合は、CVR改善のみにフォーカスすることはコスト的にも期間的にも良い選択肢かと思われます。

また「このUXだね!これで完璧!」と(そんな簡単に課題は解決しない……)、一度の改修で最適解は出辛く、改善後の運用の中でもUIUX改善の調整は必須となります。

継続的にマーケ担当、UIUX担当、テクニカル担当(テックリード)など各ポジションが共に調整し会話し改善へと導くマネジメントも重要なポイントとなります。

ユーティル 代表取締役 岩田氏のコメント

弊社は年間5,000件のマッチングを通じて、多種多様なWebサイト制作の事例を見てきましたが、「デザインを一新すれば売上が伸びる」という安易な発想でフルリニューアルに踏み切るケースが少なくありません。もちろんデザインがもたらす効果を否定はしませんが、見た目を大きく変えることで既存ユーザーの混乱を招いたり、運用コストが高騰したりするリスクもあることを、十分に認識していただきたいと思います。

今回の試算結果でも明らかなように、まずはCVR改善の成果が見込めるポイントに絞って改修する「部分リニューアル」を行うほうが、費用対効果を高められることもしばしばあります。特にBtoBサイトであれば、主要ページや問い合わせフォーム、コンテンツSEOの取り組みを優先的に強化するだけでも、成果は大きく変わってきます。限られた予算で効率よく売上増を狙うのであれば、「必要な部分だけのリニューアル」を検討することも意味のある選択肢です。

WACUL 代表取締役 垣内のコメント

リニューアルを「目的」にしてはなりません。今回例にあげたインプレスさんのWebサイトは、成果に影響するページ数が少ないため、部分改善が望ましいでしょう。一方でサイト全体の構造が成果に影響するWebサイト(ECサイト、商品点数の多いメーカーサイトなど)は、フルリニューアルせざるを得ないケースもあります。

あなたがリニューアルプロジェクトにアサインされたなら、なぜリニューアルすべきなのかを問い直すべきです。なんとなく古くなってきた気がするし、今風のデザインにしたらなんかいいことあるかも、などというゆるふわな理由が主なら、絶対にリニューアルしない方が良いでしょう。膨大なコストと時間をかけても、むしろ成果は下がり、チームメンバーの仲は悪くなります。

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