研究レポート・対談

2022.12.13

55%が第一想起した商品を導入。BtoBにおける純粋想起の実態調査 

調査に至った背景

BtoB商品は本当に “合理的に” 選ばれるのか?

BtoBの購買行動といえば、「ネットで情報収集して、複数社に問い合わせてコンペを開き、価格や機能を一覧にした比較表を作って、合理的に選定する」というプロセスを思い浮かべる方が多いだろう。

しかしながら、実際に自分の購買行動を振り返ってみると「もともと知っていた企業に問い合わせて、よさそうだったからそのまま導入に至った」という経験も多分にあるのではないだろうか。

そこで今回は、法人向けソフトウェア(マーケティングオートメーション)とハードウェア(センサー・コンデンサ・半導体チップ・リレー)において、純粋想起がどれほど導入に影響を及ぼすのか調査した。

調査結果 – サマリ

BtoBでも第一想起した商品を導入する確率は55.3%

第一想起した商品を導入する確率はソフトウェア48.0%、ハードウェア56.6%、全体で見ると55.3%だった。第一想起数と導入数には正の相関があり、第一想起は導入に、すなわち売上に貢献するといえる。

もともと認知していた商品に問い合わせる確率は48.0%

ソフトウェアの場合、導入検討前から認知していた商品数は平均4.56社、そこから問い合わせる確率は平均52.4%。ハードウェアの場合、認知していた企業数はおよそ2.00社、そこから問い合わせる確率は平均47.0%だった。

認知していたのに問い合わせない理由は機能・費用のミスマッチ

認知していたのに問い合わせないパターンの代表例は「機能/仕様もしくは費用のミスマッチ」である。また、ハードウェアの場合は「取引実績がない」という理由で候補から外されるケースが40.3%発生する。

実際に問い合わせる商品数は平均2〜3社

導入検討時、実際に問い合わせる商品数はソフトウェア約3社、ハードウェア約2社であり、もともと認知していた商品でこの枠の過半数は埋まってしまう。認知されていない商品が問い合わせ候補に入り込むには、ネットで検索した際に商品情報がヒットするよう対策するか、紹介をもらうしかない。

ソフトウェアで第一想起をとるポイントは「情報の信頼性」

ソフトウェアで第一想起をとるには、ただ広告を出すだけではなく、有益なコンテンツを自社あるいは外部メディアで発信して「信頼」を得る必要がある。また、1つのチャネルに特化して競合他社を凌駕する情報発信をおこなうと、認知度が上がる傾向がある。

ハードウェアで第一想起をとるポイントは「取引実績」

ハードウェアで第一想起をとるためには、さらに問い合わせ・導入へつなげるためには、とにもかくにも「取引実績の有無」が重要だ。一度取引できれば追加発注がもらえる可能性も高いため、初回取引を生み出すためにあらゆる手を尽くすべきである。

調査概要

ソフトウェアは弊社メルマガを、ハードウェアは株式会社マーケティングアプリケーションズ社が提供するリサーチプラットフォームを活用して、直近3年以内に対象商品の導入に携わったことがある方へアンケートを実施した。

調査結果

Ⅰ. ソフトウェア:マーケティングオートメーション(MA)

「第一想起」が導入に及ぼす影響

72.0%の企業はもともと認知していたMAを導入。なかでも、第一想起したMAを導入したケースが48.0%を占めた。

第一想起と導入の相関は以下のとおりである。

「導入数が多い商品」と「よく第一想起される商品」は完全には一致しないものの、相関係数0.44と正の相関があり、「認知度が高く導入数も多い商品」「認知度が低く導入数も少ない商品」という2つの商品群に大別できることがわかった。

BtoBのソフトウェアにおいて、第一想起の獲得は導入に、すなわち売上に好影響を及ぼすと言えるだろう。

第一想起を獲得するためにはただ広告を出すだけではなく、有益なコンテンツを自社あるいは外部メディアで発信し、信頼を得ることが重要であるとわかる。

以降、「認知→問い合わせ→導入」という時系列に沿って詳細なデータをまとめた。

「純粋想起」が問い合わせや導入に及ぼす影響

前提として、認知していたMAは平均4.56社である。

認知していたMAに問い合わせた確率は平均52.4%。認知を獲得していれば半分の人は問い合わせてくれる、とも捉えられる。

「自社が希望する仕様/機能と異なった」「費用感が合わなかった」という理由で候補から外れてしまうことはある程度仕方のないことだが、「名前を知っているだけで信頼感がなかった」「自社に近い実績がなかった」という2つの理由については、自社の情報発信を見直して解消すべきである。

問い合わせたMAは平均3.04社。ここまでのデータを踏まえると、3枠のうち、もともと認知していたMAで2社は埋まる計算になる(4.56社 × 52.4% = 2.38社)。認知されていないMAに残されたチャンスはたった1枠しかない。

上から2つ目の「以前より使ってみたいと思っていた企業に問い合わせた」と、3つ目の「現在取引している企業に声をかけた」は、もともと認知されているケースである。

よってまだ認知されていない場合、「ネットで調べたときに自社の情報をヒットさせること」「(既に自社を知っている人に)紹介してもらうこと」に尽力するしかない。

MAの導入の決め手は「最も自社が希望する機能を備えていた」に最も票が集まった。続いて、「最も費用を抑えられた」「提案内容・営業担当がよかった」という理由が挙がった。

参考までに、第一想起されているわりに導入数が少なかった商品の失注理由を個別に見ていくと、「同等の機能でもっと費用を抑えられるツールが見つかった」というパターンが多かった。

「純粋想起」を獲得する方法

続いて、よく第一想起されている4つのMAに対して個別に認知チャネルを見ていくと、各社の特色が見受けられた。

日本でMAが広がりはじめた当初より積極的に営業・マーケティング活動をおこなっているAdobe Marketo Engageは、Webメディアや対面で多くの認知を獲得している。

国産MAのなかで唯一高い認知度を誇ったSATORIは、有名タレントを起用したテレビCMでの認知獲得が顕著である。

Account EngagementはSalesforceとのセット導入が多いため、自社の営業担当者からの提案が多いと予想される。

インバウンドマーケティングを体現すべくオウンドメディアでの情報発信に力を入れているHubSpotは、Webメディアが最大の認知チャネルとなっている。

なお、その他のMAの認知チャネルは以下のとおりだ。

認知度の高い企業群と低い企業群を比較してみると、認知度の高い企業は「より多くのチャネルで接点を持っている」ことはさることながら、「ある特定のチャネルで頭一つ飛び抜けている」という特徴がある。

あらゆるチャネルで発信することはもちろん重要だが、どこか一つのチャネルにおいて他の追随を許さない投資をおこなうことが、認知度向上に寄与するといえるだろう。

Ⅱ.ハードウェア:センサー・コンデンサ・半導体チップ・リレー

「第一想起」が導入に及ぼす影響

66.3%はもともと認知していた商品を導入。なかでも、第一想起した商品を導入したケースが56.6%を占めている。

第一想起と導入の相関は以下のとおりである。

いずれも相関係数0.9以上の強い正の相関があり、BtoBのハードウェアにおいても第一想起の獲得は売上に好影響を及ぼすと断言できる。

第一想起の理由としては「取引実績があったから」が最も多く票を集めた。その他の営業活動や広告投資、メディアでの情報発信による認知効果は横並びである。

以降、「認知→問い合わせ→導入」という時系列に沿って純粋想起に関わるデータを見ていく。

「純粋想起」が問い合わせや導入に及ぼす影響

もともと認知していた商品は平均3.82社。ただし分布の偏りを考慮して中央値をとると2.00社である。

認知していた商品に対して問い合わせた確率は平均47.0%だった。

「機能」「費用」のミスマッチよりも、「自社との取引実績がなかった」という理由に最も票が集まった。ハードウェアにおいては問い合わせ時点においても「取引実績の有無」が壁となる。

問い合わせた商品は平均2.80社、中央値は2.00社である。中央値にもとづき計算すると、もともと認知していた商品で2枠中の1つは埋まる(2.00社 × 47.0% = 0.94社)。認知されていない商品に残されたチャンスは1枠だ。

なお、ハードウェアの場合は1社にしか問い合わせていない企業が非常に多く、約半数はしっかりと比較検討することなく導入する商品を決めていると言える。

「取引実績がある企業に声をかけた」「過去に使ったことがある商品リストを見て声をかけた」など、取引実績がある企業から候補を洗い出す傾向が強いことがわかる。捉え方を変えれば、「一度取引実績を作れば追加発注をもらえる可能性が高い」とも言える。

なんとかして初回取引を生み出すためには、「比較サイトやディストリビュータサイトなどに自社の商品情報をしっかりと掲載すること」「(既に自社を知っている人に)紹介してもらうこと」に努めるか、あるいは普段から認知を高めておくしかない。

導入の決め手においても、「機能」「費用」を抑えて「もともと取引があった」ことが最も多かった。ソフトウェアでは票が集まった「提案内容・営業担当」はほとんど重視されていない。

なお、「もともと認知していなかった商品を導入した」ケースを個別に見ていくと、その多くは「最も自社が希望する仕様/機能を備えていた」が決め手となっているようだ。

いままでのデータを統合すると、BtoBのハードウェアの購買行動には「取引実績のある企業を第一想起してほぼ比較検討することなくそのまま導入する」か、あるいは「想起した企業はあるが仕様がマッチせず、過去に取引実績のある企業リストやネットで探し直して選定する」という2パターンが大きく存在すると言える。

「純粋想起」を獲得する方法

続いて、認知度の高い企業に対して個別に認知チャネルを確認した。

ハードウェアの場合、「対面(もともと取引があった/営業を受けたなど)」で認知することが圧倒的に多い。また、テレビCMやタクシーCMなど積極的に広告投資をおこなっている場合は認知チャネルにそれらが挙がっている。

ハードウェア提供企業には国内の認知度が100%に近いであろう日本有数の大手企業も多いが、センサーやコンデンサなど “該当商品の提供企業” としては数%〜30%程度の認知度しかない。ブランド広告やBtoC商品を通じて社名を知ってもらうだけではなく、「我々は法人向けにこんな商品を提供しています」とアピールしなければ、売上にはなかなか貢献しないだろう。

本調査の提言

第一に、「純粋想起」獲得の優先度を上げる

BtoBマーケティングは「ニーズ顕在層へのアプローチ」ばかりフォーカスされがちだ。これらを優先することは決して間違ってはいないが、中長期的には「ニーズ潜在層へのアプローチ」、すなわち「純粋想起の獲得」にも取り組むべきである。なぜなら、第一想起された商品は55%という高い確率で導入されるからだ。

ソフトウェアは「有益なコンテンツ」を発信し第一想起を獲得せよ

企業と顧客の間に知識量の差があるソフトウェアにおいては、自社が持つノウハウを惜しみなく発信し、「その領域のプロフェッショナルである」という信頼を得ることが第一想起につながる。また、あらゆるチャネルで情報発信するのはもちろんのこと、1つのチャネルに特化して他を凌駕する情報発信をおこなうことも認知度向上に有効である。

ハードウェアは「取引実績」重視、初回取引の獲得に尽力せよ

第一想起をとるにしても商談や導入数を伸ばすにしても、ハードウェアはとにもかくにも「取引実績の有無」が重要だ。逆に捉えれば、一度取引実績を作れば追加発注がもらえる可能性も高い。よってまずは初回取引を生み出すことに尽力すべきである。比較サイトやディストリビュータサイトに漏れなく自社の情報を掲載する、広告に投資をして認知を高めておくなど、あらゆる手段を駆使しよう。

「社名」だけでなく「製品・サービス名」を知らせよう

マス広告等で社名は知られているにもかかわらず、「信頼感がなく問い合わせなかった」「該当商品を提供していることを知らなかった」といった理由で問い合わせに至らないケースがある。「提供できる製品・サービス名」「実績」が伝わっているかどうか、自社の情報発信を今一度見直そう。

才流 代表取締役社長 栗原氏のコメント

例えば、営業部門の生産性向上に寄与するツールを提供するA社があったとしよう。

A社はSEOや検索広告、Webサイトのコンバージョン率の最適化など、いわゆる“顕在層の刈り取り施策”をやり切っていて、事業成長に向けた次の打ち手を模索している。

こうしたお悩みを持つ企業様から度々ご相談をいただくが、当該商品カテゴリーの購買行動を調査してみると「見込み客10社のうち、2社しかA社を認知していない」「見込み客10社のうち、1社しかA社に問い合わせていない」「見込み客10社のうち8社が競合のB社に問い合わせ、5社が導入している」といったパターンがよくある。

つまりA社は刈り取り型のマーケティング施策では十分に効率的な成果をあげ、市場の一部の顧客獲得には成功しているが、市場全体を見渡すと知らず知らずのうちに競合他社に膨大な顧客を取られていたのだ。

この場合の打ち手は本レポートで指摘されているように、後回しにしていた認知率や想起率を上げる施策に取り組み、第一想起や純粋想起を獲得していくしかない。

マーケターとしては目先のKPI達成や効率的な施策実行に満足することなく、市場全体で何が起きているのか、自社のポジションはどうなっているのか、市場シェアを増やすためにできる打ち手は何なのかを常に問い続ける必要があるだろう。

シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山氏のコメント

この数年で日本のB2Bマーケティングは二極化が進んだ。ひとつはいわゆるサブスク型モデルのスタートアップ企業が提供する業務アプリケーションを中心としたもので、契約後1年以内に回収できる商談単価が100万円前後と低価格帯が特徴だ。その一方では従来型の顧客を中心に数千万、数億円の商談単価を提供するB2Bもあり、このふたつでは立案する戦略も、活用するモデルも、使うツールも異なったものを用意する必要がある。

そういう意味でも自社のマーケティング戦略をしっかり構築し、それを基準に組織を設計し、ツールや連繋させるべきデータを選択するようにしないと、MAは相変わらずメール配信ツールに、SFAは営業の業務日報になり、日本企業の喫緊の課題である営業の生産性向上にも、DXにも貢献しないことになる。

そういう意味でも、このレポートは極めて重要であり、学ぶべき要素が多いものと言えるだろう。

WACUL 代表取締役 垣内のコメント

BtoBマーケティングでは、短期で売り上げに繋がる「営業」や「リード獲得」の施策に目が行きやすい。一方で、本レポートにある純粋想起を獲得するための施策は、短期売上に繋がらないこともあり、なかなか投資されずに放置される。まずはこの純粋想起獲得に、本気でお金と時間を使うことを決めなければならない。

そのためには売り上げに繋がるKPIと目標設定が不可欠だ。純粋想起獲得の施策は、データ取得の難しさから効果検証がおざなりになる。大雑把でも構わないが、売上にどの程度つながったかを、ストイックに追いかけるべきだ。売上に貢献しない施策への投資は長続きせず、スポットのお祭りで終わってしまう。

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