研究レポート・対談

2022.01.26

地銀が運営するECサイトの評価レポート 〜 定石はほとんど使われていない

地銀が運営するECサイトの評価レポート 〜 定石はほとんど使われていない

地方銀行が新規事業として取り組んでいるECサイトを調査した結果、7つのサイトすべてにおいて、売上を伸ばす勝ちパターン(20項目)が半分も実施されていないことがわかった。特に以下3項目はいますぐ取り組むべきである。

  • Amazon Payを導入して初回購入のハードルを下げる

  • ゲスト購入をなくしてメール配信許諾をとり継続的に接触、追加購入を促す

  • 定期購入商品で売上の土台を作りながら継続的に接触、追加購入を促す

調査に至った背景

立ち上がったばかりのECサイトに売上を伸ばす提案を

新型コロナウイルス感染症による外出自粛に伴い「EC」の利用はより身近になった。需要が伸びれば、当然新規参入する企業も増える。「地方銀行」もそのうちの一つだ。地域貢献の一環として地元の名産品や伝統工芸品を販売するECサイトが続々と立ち上がっている。

しかしそれらのサイトを見てみると、売上を伸ばすために欠かせないポイントが抜け落ちてしまっているケースが多いようだ。そこで今回は地方銀行が運営するECサイトにおいて、弊社WACULが保有するECサイトの勝ちパターンがどれほど実施されているのかを調査。いますぐ取り組むべき改善策を提案する。

地方銀行が運営するものに限らず、立ち上がったばかりのECサイトの売上を伸ばす一助となれば幸いである。

ECサイトにおけるユーザー行動

具体的な勝ちパターンを紹介する前に、ECサイト上でユーザはどのような行動をするのか整理しよう。

あなたはECで商品を購入しようと思ったとき、まずなにから始めるだろうか?

ほとんどの人は、使い慣れていてポイントも貯まるAmazonや楽天で商品を探すだろう。見たことも聞いたこともないECを最初から選ぶことはまずないはずだ。「目当ての商品が見つからなかった」あるいは「もっと安く購入したい」ときだけ自社のECにチャンスが回ってくるのである。

しかしいざそのチャンスを得て自社のECへ流入してくれたとしても、決済画面で支払情報の入力が煩わしければ、商品名で検索し直して別のECサイトへ流れてしまう。初回購入に至るまでのハードルは非常に高いのだ。

ただし一度でも購入してもらい商品に満足してもらえれば、追加購入のハードルはそこまで高くない。新着商品や季節の特集に関する案内をメールなどで受け取り、魅力を感じれば再度購入に至る、という流れである。

以上のユーザ行動を踏まえると、ECで売上を伸ばすためには「初回購入のハードルを下げること」が欠かせない。

同時に、「一度購入してくれたユーザに接触し続けて追加購入を促すこと」も極めて重要だ。なぜならECは商品原価と売値の差額で稼ぐビジネスであり、総じて利益率が低い。顧客が継続的に購入してくれなければ、つまりLTV(顧客生涯価値)が低ければ、新規ユーザを獲得するための広告や商品企画にそもそも投資できないのである。ECが生き残るためには、リピーターを増やすしか道はない。

ECサイトの勝ちパターン

それではここから、ECサイトの勝ちパターンをチェックリストとともに紹介しよう。

※なお、ECの売上を伸ばすためには「新着商品メールを頻度高く配信する」「カゴ落ちメールを配信する」「初回購入につながる魅力的な商品を仕入れる」など、サイト改善だけでは完結しない施策も多々存在する。今回は主にサイトにおける勝ちパターンのみ紹介するが、より詳細を知りたい方は書籍「デジタルマーケティングの定石」の「Chapter11【Web完結型】ECの型>一般的なEC」の章も参考にしていただきたい。

ECサイトの20の勝ちパターン

カート

・Amazon Payを導入している

・ゲスト購入がない

・フォームの入力負荷が低い(入力項目や入力ステップが最小限である)

商品一覧・特集ページ

・Amazon Payで支払えることがわかる

・このECで購入するメリットがわかる(品揃えNo.1やセール開催中など)

・商品点数が多い

・特集ページのURLが固定されている

・ページ下部から類似商品一覧やおすすめ商品一覧に回遊できる

・ランキングや口コミなど購入を後押しする記載がある

商品詳細

・Amazon Payで支払えることがわかる

・このECで購入するメリットがわかる(品揃えNo.1やセール開催中など)

・類似商品やおすすめ商品に回遊できる

・商品写真が複数並んでいる

・ファーストビューに「カート追加ボタン」がある

トップページ

・新着商品が並んでいる

・特集ページが並んでいる

・フリーワード検索が上部にある

・ナビゲーションに「購入履歴」「閲覧履歴」「再入荷通知」がある

商品ラインアップ

・定期購入商品を取り扱っている

表示スピード

・表示スピードが速い

カート

最優先で改善すべきは、購入の一歩手前に当たるカートだ。まずは「支払情報を入力するのが面倒」という初回購入のハードルを下げるため、Amazon Payの導入は必須である。これだけで購入率は明確に上がる。

また、追加購入を促しLTVを上げることが重要なECにおいて「会員登録せずに購入できる“ゲスト購入”」は愚策だ。初回購入率が高まったとしても、2回目以降の購入につながらない初回購入に価値はない。「会員登録して購入」と「会員登録せずに購入」を分ける必要すらなく、メール配信許諾をとればよいだけである。

もちろん、入力項目や入力ステップを最低限に絞るという一般的なフォーム改善も有効だ。

これらカートの勝ちパターンは売上を左右する主要なドライバーだが、今回調査した7つのECサイトのうち「Amazon Payを導入している」「ゲスト購入がない」のはそれぞれ1社しか存在しなかった。多くのECにおいて伸びしろがあるポイントである。

商品一覧・特集ページ

商品一覧や特集ページは新規ユーザが流入する入口となり得るため、「品揃えNo.1」「セール開催中」など、このECで購入するメリットをきちんと訴求することが重要である。また、カートにいって初めて「Amazon Payが使える」とわかるようでは遅いため、一覧上にもAmazon Payで支払える旨を明記しよう。

新規ユーザからの検索流入を得るためには、一覧に並ぶ商品点数は多いほうが順位が上がりやすい。また、特集ページで検索上位を狙いたければページの作成方法に注意が必要だ。たとえば「地元〇〇県のお歳暮特集」の場合、「xxxxx.jp/oseibo2022」といったURLで毎年新しいページを作ってはならない。「xxxxx.jp/oseibo」とページを固定して中身だけ更新するほうが、「◯◯県 お歳暮」で上位を狙いやすくなる。

また、理性より感性で購入を決めるグルメや雑貨においては、商品はたくさん見せたほうが購入率が上がる。そのため類似商品やおすすめ商品へとにかく回遊させることが重要だ。特に新規ユーザの場合はAmazonなど他のECへすぐに流れてしまうため、なんとしても回遊させて “このECサイト内で商品を探すモード” に入ってもらおう。回遊の動線は「次はどの情報をチェックしようか」と心の隙が生まれやすいページ下部に設けるのがセオリーだ。

最後に、人気ランキングや口コミの表示は購入を後押しする効果があるため、取り入れることをおすすめする。

今回調査した7つのECサイトでは、類似商品へ回遊させたり人気商品を目立たせたりする施策はできているものの、新規ユーザを取りこぼさない訴求までケアされているケースが少なかった。

商品詳細

商品詳細は商品一覧と同じく、新規ユーザが流入する入口となり得る。そのため「Amazon Payの明記」「このECで購入するメリットの訴求」は商品詳細でも欠かさず取り入れよう。「類似商品やおすすめ商品への回遊」も同様に有効である。

また、感性で購入するグルメや雑貨は “写真” を基準に選ぶため、シズル感のある食卓など、魅力的な商品写真を複数並べることで購入を後押しできる。

その他、商品詳細では購入意思があるユーザーをカートへ直行させるべく、ファーストビューに「カート追加ボタン」を表示させよう。

どのECも魅力的な商品写真は十分用意されていたが、商品一覧同様、商品詳細においても新規ユーザ向けの訴求が足りていないようだ。

トップページ

トップページは基本的にリピーターしか訪れないため、リピーターがよく閲覧する新着商品や特集ページ、値下げや再入荷情報を順に載せればよい。ナビゲーションにも購入履歴や閲覧履歴、再入荷通知を盛り込むことで追加購入を促せる。また、お目当ての商品を探すケースもあるため、フリーワード検索は設けよう。

今回調査したECサイトでは、特集ページはみな並んでいるものの、新着商品紹介やナビゲーションのメニューはまちまちだった。いま一度リピーターが喜ぶ情報が揃っているかを確認するとよいだろう。

商品ラインアップ

商品ラインアップはECの成否を決める。特に「このECでしか買えない魅力的な商品を用意して初回購入を促すこと」「追加購入を促すセット商品や定期購入商品があること」が極めて重要だ。

利益率が高く、在庫が尽きず、短期間で消費される商品は積極的に定期便化して販売しよう。こうした定期購入商品は売上の土台になるだけでなく、メールや同梱物で接触回数を増やせるために別商品を買ってもらうチャンスも広がりやすいのだ。

今回の調査では、採点の都合上「定期購入商品の有無」のみ評価対象とした。定期購入商品を揃えていたのは7社中3社と半分以下に留まった。

表示スピード

ECに限らずWebサイト全般において、表示スピードの速さはユーザの利便性に直結する。

Googleが提供するパフォーマンス診断「PageSpeed Insights」では読み込み速度50点以上で良好とされるが、今回調査した7つのECサイトの平均点は30.1と、表示に時間がかかっていることがわかった。写真を軽量化するといった取り組みが必要である。

採点結果

ここまでに紹介した20の勝ちパターンを採点項目へと落とし込み、地方銀行が運営する7つのECサイトを100点満点で評価した。採点は2021年11月28日、スマートフォンより各ECサイトを目視で閲覧しておこなっている。表示速度の測定にはGoogleが提供する「PageSpeed Insights」を用いた。

ランキングの結果は以下のとおりだ。

地銀が運営するECランキング

20の勝ちパターンのうち、実施済みの項目は平均9つと半分以下に留まった。さらに「Amazon Payの導入」「ゲスト購入不可」「定期購入プランあり」など、配点を高くしていた重要な施策がほとんどのECで実施されておらず、全体平均は33.5点と低い結果になった。どのECも勝ちパターンを踏襲することで売上が伸びる可能性が十分にある。

上位3サイトについては特徴を紹介する。

 1位:jimotto(山口フィナンシャルグループ)

https://www.ymtc-webstore.jp/

唯一Amazon Payを導入しており、表示スピード以外の全体の点数が高い「jimotto」が1位を獲得した。Amazon Payで支払えることを商品一覧・商品詳細ページでも訴求するだけでさらに点数は伸びる。

2位:エンニチ(ふくおかフィナンシャルグループ)

https://www.ennichi-japan.com/

唯一ゲスト購入がなかった「エンニチ」が2位にランクイン。他のECサイトのカートはパッケージそのままでどこも似通っているが、エンニチはオリジナルデザインで使い勝手のよさが印象的だった。

3位:Lacycle mall(阿波銀行)

https://lacycle-mall.jp/

残念ながら主要な施策は外していたものの、商品を魅力的に紹介する点で優れていた「Lacycle mall」が3位を獲得した。特に商品一覧は「ランキング」「期間限定」「送料無料」など、ユーザの商品選びをサポートする記載に溢れている。

本調査の提言

今回調査した地方銀行が運営する7つのECサイトすべてにおいて、売上を伸ばす勝ちパターン(20項目)は半分も実施されておらず、100点満点で採点した結果の平均点は33.5だった。特集ページの運用や魅力的な商品写真の掲載は工夫が見受けられたが、売上を伸ばすための主要な施策が抜け落ちてしまっていた。特に以下の3点はいますぐ取り組むべきである。

  • Amazon Payを導入して初回購入のハードルを下げる

  • ゲスト購入をなくしてメール配信許諾をとり継続的に接触、追加購入を促す

  • 定期購入商品で売上の土台を作りながら継続的に接触、追加購入を促す

あなたが運営するECは、ユーザにとっては無数に存在するECの1つに過ぎない。Amazonや楽天ではなく “このECで買う理由” を作れているのかをまずは徹底的に見直そう。また、リピーターなしに生き残れないECにおいてゲスト購入を許容している場合ではない。いかに2回目の購入につなげるかにもっとこだわろう。

株式会社DINOS CORPORATION CECO / 株式会社bydesign 取締役社長 石川氏のコメント

本レポートはECサイトの主に構成・構造について言及したものであるが、リアルの店舗に置き換えて考えれば感覚的にもより腹落ちしやすいかもしれない。たとえばスーパーマーケットの店舗構造は日本全国だいたい同じだ。入り口から生鮮野菜が並び、外周部分に魚、肉類、乳製品や惣菜が続く。そして内側部分に缶詰や菓子類などが川の字に配置されレジ前には乾電池などの小物類が置かれる。これには2つの理由が考えられる。一つは各店舗の試行錯誤から導かれたベストプラクティスという側面。もう一つは顧客がそれに慣れていて他店と同じ構成にすることで容易にユーザビリティを担保できるという側面。

ECサイトにおいても同じことが言える。売り場の構成・構造については早々にマーケットのベストプラクティスを取り込み、ユーザーの「いつもの売り場」に揃えてしまうべきだ。

特に注意が必要なのは、UIUXデザイナーが強い企業や代理店からの提案は尖った売り場を志向しがちだという点だ。尖るべき点はサイト構造ではなく、商品やサービス、コンテンツの精度についてだ。そして売上と利益を獲得するためにより重要なことは、顧客と継続的な接点をもつためのコミュニケーションに十分なリソースを割くことである。

WACUL 取締役 垣内のコメント

今回は地銀が運営するECサイトを評価したが、同じように世の中のECサイトを評価・改善することも可能だ。

ECサイトの歴史は長いため、何をすれば売れるか多くの定石が存在する。しかしそれらを使わずに、まっさらな状態からサイトを立ち上げてしまうケースが本当に多い。自社独自のオリジナリティを追求してしまうのかもしれないが、ECにおいてそんなものは微塵も存在してはならない。今回はWebサイトの評価だけ行ったが、広告・SEO・SNSなどの集客手法や、セール・特集・キャンペーンなども同様にオリジナリティは不要だ。

ECサイトが独自にこだわってよいのは「商品」だけである。商品企画に全力投球し、他の施策は定石に則って効率化していくべきだ。

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