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2024.07.08

地方銀行が新規事業として取り組んでいる18のECサイトを調査した結果、売上を伸ばすために改善できる点が多数見つかった。特に以下2項目はいますぐ取り組むべきである。
Amazon Payを導入して初回購入のハードルを下げる
定期購入商品で売上の土台を作りながら継続的に接触、追加購入を促す
前回調査を行った2021年にすでに開設されていた地銀ECが2024年の今回の調査でもトップ3を占めたことから、新規に開設された地銀ECはECの定石や先行するプレイヤーの研究が不十分のようだ。
一方、上位3行の順位は入れ替わった。前回2位だったエンニチ(ふくおかフィナンシャルグループ)が1位に、前回1位だったjimotto(山口フィナンシャルグループ)が2位となった。
山口FGはDXコンサルティングや新規事業育成などを手掛けるドリームインキュベータと資本業務提携をするなどしているので、そうした提携の効果をEC運営にも還元し再度の1位を奪還できるのか、今後に注目したい。
2022年、弊社では「地銀が運営するECサイトの評価レポート 〜 定石はほとんど使われていない」という研究レポートを発表した。
当時、新型コロナウイルス感染症による外出自粛に伴い、「地方銀行」が地元の名産品や伝統工芸品を販売するECサイトを続々と立ち上げていた。その勢いは止まらず、2024年現在もなお増え続けている。
そこで今回は「3年前から運営されているECサイトはその後改善されているのか」「新しく参入したECサイトには、どれほどデジマの勝ちパターンが適用されているのか」を明らかにするため、同様の調査をおこなった。
前回の研究レポートと同様の内容ではあるが、本題に入る前に改めて「ECサイトにおけるユーザー行動」を整理する。
あなたはECで商品を購入しようと思ったとき、まずなにから始めるだろうか?
ほとんどの人は、使い慣れていてポイントも貯まるAmazonや楽天で商品を探すだろう。見たことも聞いたこともないECを最初から選ぶことはまずないはずだ。「目当ての商品が見つからなかった」あるいは「もっと安く購入したい」ときだけ自社のECにチャンスが回ってくるのである。
しかしいざそのチャンスを得て自社のECへ流入してくれたとしても、決済画面で支払情報の入力が煩わしければ、商品名で検索し直して別のECサイトへ流れてしまう。初回購入に至るまでのハードルは非常に高いのだ。
ただし一度でも購入してもらい商品に満足してもらえれば、追加購入のハードルはそこまで高くない。新着商品や季節の特集に関する案内をメールなどで受け取り、魅力を感じれば再度購入に至る、という流れである。
以上のユーザ行動を踏まえると、ECで売上を伸ばすためには「初回購入のハードルを下げること」が欠かせない。
同時に、「一度購入してくれたユーザに接触し続けて追加購入を促すこと」も極めて重要だ。なぜならECは商品原価と売値の差額で稼ぐビジネスであり、総じて利益率が低い。顧客が継続的に購入してくれなければ、つまりLTV(顧客生涯価値)が低ければ、新規ユーザを獲得するための広告や商品企画にそもそも投資できないのである。ECが生き残るためには、リピーターを増やすしか道はない。
それではここから、ECサイトの勝ちパターンをチェックリストとともに紹介しよう。
※なお、ECの売上を伸ばすためには「新着商品メールを頻度高く配信する」「カゴ落ちメールを配信する」「初回購入につながる魅力的な商品を仕入れる」など、サイト改善だけでは完結しない施策も多々存在する。今回は主にサイトにおける勝ちパターンのみ紹介するが、より詳細を知りたい方は書籍「デジタルマーケティングの定石」の「Chapter11【Web完結型】ECの型>一般的なEC」の章も参考にしていただきたい。
ECサイトの20の勝ちパターン
カート
・Amazon Payや楽天Payを導入している
・ゲスト購入がない
・フォームの入力負荷が低い(入力項目や入力ステップが最小限である)
商品一覧・特集ページ
・Amazon Payや楽天Payで支払えることがわかる
・このECで購入するメリットがわかる(品揃えNo.1やセール開催中など)
・商品点数が多い
・特集ページのURLが固定されている
・ページ下部から類似商品一覧やおすすめ商品一覧に回遊できる
・ランキングや口コミなど購入を後押しする記載がある
商品詳細
・Amazon Payや楽天Payで支払えることがわかる
・このECで購入するメリットがわかる(品揃えNo.1やセール開催中など)
・類似商品やおすすめ商品に回遊できる
・商品写真が複数並んでいる
・ファーストビューに「カート追加ボタン」がある
トップページ
・新着商品が並んでいる
・特集ページが並んでいる
・フリーワード検索が上部にある
・ナビゲーションに「購入履歴」「閲覧履歴」「再入荷通知」がある
商品ラインアップ
・定期購入商品を取り扱っている
表示スピード
・表示スピードが速い

最優先で改善すべきは、購入の一歩手前に当たるカートだ。まずは「支払情報を入力するのが面倒」という初回購入のハードルを下げるため、Amazon Payや楽天Payなどメジャーな決済手段導入は必須である。これだけで購入率は明確に上がる。にもかかわらず、今回調査した18のECサイトのうち「Amazon Payや楽天Payを導入している」のは3サイトしか存在しなかった。多くのECにおいて伸びしろがあるポイントである。
また、追加購入を促しLTVを上げることが重要なECにおいて「会員登録せずに購入できる“ゲスト購入”」は愚策だ。初回購入率が高まったとしても、2回目以降の購入につながらない初回購入に価値はない。「会員登録して購入」と「会員登録せずに購入」を分ける必要すらなく、メール配信許諾をとればよいだけである。
なお、後発のECサイトはゲスト購入が用意されていないケースが多く、「会員登録必須」が一般的になってきている印象を受けた。
もちろん、入力項目や入力ステップを最低限に絞るという一般的なフォーム改善も有効だ。
商品一覧や特集ページは新規ユーザが流入する入口となり得るため、「品揃えNo.1」「セール開催中」など、このECで購入するメリットをきちんと訴求することが重要である。また、カートにいって初めて「Amazon Payや楽天Payが使える」とわかるようでは遅いため、一覧上にもAmazon Payや楽天Payで支払える旨を明記しよう。
新規ユーザからの検索流入を得るためには、一覧に並ぶ商品点数は多いほうが順位が上がりやすい。また、特集ページで検索上位を狙いたければページの作成方法に注意が必要だ。たとえば「地元〇〇県のお中元特集」の場合、「xxxxx.jp/summer-gift2024」といったURLで毎年新しいページを作ってはならない。「xxxxx.jp/summer-gift」とページを固定して中身だけ更新するほうが、「◯◯県 お中元」で上位を狙いやすくなる。
また、理性より感性で購入を決めるグルメや雑貨においては、商品はたくさん見せたほうが購入率が上がる。そのため類似商品やおすすめ商品へとにかく回遊させることが重要だ。特に新規ユーザの場合はAmazonなど他のECへすぐに流れてしまうため、なんとしても回遊させて “このECサイト内で商品を探すモード” に入ってもらおう。回遊の動線は「次はどの情報をチェックしようか」と心の隙が生まれやすいページ下部に設けるのがセオリーだ。
今回、商品詳細ページでは関連商品を紹介できているものの、商品一覧・特集ページの下部で回遊を促せているサイトは1つしかなかった。
最後に、人気ランキングや口コミの表示は購入を後押しする効果があるため、取り入れることをおすすめする。
商品詳細は商品一覧と同じく、新規ユーザが流入する入口となり得る。そのため「Amazon Payや楽天Payの明記」「このECで購入するメリットの訴求」は商品詳細でも欠かさず取り入れよう。「類似商品やおすすめ商品への回遊」も同様に有効である。
また、感性で購入するグルメや雑貨は “写真” を基準に選ぶため、シズル感のある食卓など、魅力的な商品写真を複数並べることで購入を後押しできる。
その他、商品詳細では購入意思があるユーザーをカートへ直行させるべく、ファーストビューに「カート追加ボタン」を表示させよう。
今回の調査においてファーストビューにボタンが確認できたのは、18サイト中3つしかなかった。
トップページは基本的にリピーターしか訪れないため、リピーターがよく閲覧する新着商品や特集ページ、値下げや再入荷情報を順に載せればよい。ナビゲーションにも購入履歴や閲覧履歴、再入荷通知を盛り込むことで追加購入を促せる。また、お目当ての商品を探すケースもあるため、フリーワード検索は設けよう。
今回調査したECサイトでは、新着商品や特集ページはみな並んでいるものの、新着商品紹介やナビゲーションのメニューはまちまちだった。いま一度リピーターが喜ぶ情報が揃っているかを確認するとよいだろう。
商品ラインアップはECの成否を決める。特に「このECでしか買えない魅力的な商品を用意して初回購入を促すこと」「追加購入を促すセット商品や定期購入商品があること」が極めて重要だ。
利益率が高く、在庫が尽きず、短期間で消費される商品は積極的に定期便化して販売しよう。こうした定期購入商品は売上の土台になるだけでなく、メールや同梱物で接触回数を増やせるために別商品を買ってもらうチャンスも広がりやすいのだ。
今回の調査では、採点の都合上「定期購入商品の有無」のみ評価対象とした。定期購入商品を揃えていたのは18社中2社と、非常に少ない。
なおかつ、過去定期便をおこなっていたが現在はやっていないサイトも2〜3見受けられた。ECにおける定期購入商品の重要性を認識する必要があると言える。
ECに限らずWebサイト全般において、表示スピードの速さはユーザの利便性に直結する。
Googleが提供するパフォーマンス診断「PageSpeed Insights」では読み込み速度50点以上で良好とされるが、今回調査した18のECサイトの平均点は38.0と、表示に時間がかかっていることがわかった。
ただし2021年調査時の平均点は30.1であるため、全体的に改善傾向である。
ここまでに紹介した20の勝ちパターンを採点項目へと落とし込み、地方銀行が運営する18のECサイトを100点満点で評価した。採点は2024年6月23日、スマートフォンより各ECサイトを目視で閲覧しておこなっている。表示速度の測定にはGoogleが提供する「PageSpeed Insights」を用いた。
ランキングの結果は以下のとおりだ。

「Amazon Payや楽天Payの導入」「定期購入プランあり」など、配点を高くしていた重要な施策がほとんどのECで実施されておらず、全体平均は33.8点と低い結果になった。
また、2021年調査時は平均33.5点であったことを踏まえると、あまり改善も見受けられない。デジタルマーケティングの定石を普及させる立場の我々としては、反省すべき結果である。
以下、上位5サイトについては特徴を紹介する。

https://www.ennichi-japan.com/
前回2位→今回1位に浮上した「エンニチ」は、前回も調査した7サイトのうち最も改善が見受けられたECだ。特に「商品一覧ページ」は回遊動線が強化されていたり、一覧できる商品数が増えていたりと、使い勝手が向上していた。

前回1位の「jimotto」はAmazon Payがあらゆる箇所でしっかりとアピールされていたが、「商品一覧」「商品詳細」のスマホ版のみバナーが表示されず、非常に惜しい結果となった。また、3年前に課題となっていた「表示スピード」は大きく改善されていた。

前回3位の「Lacycle mall」は順位をキープ。商品を魅力的に紹介するデザイン性の高さは相変わらずだが、改善された箇所はあまり見つからなかった。

https://ec.shinokuni-store.com/
「ゲスト購入なし」「入力ステップが最小限」など、カート周りの点数が高かった「詩の国秋田」が4位にランクイン。「商品一覧」や「商品詳細」を見直せば、さらなる点数アップが見込める。

4位同様、カート周りの点数が高かった「ならわし」が5位を獲得。決済手段がダントツで豊富なだけでなく、会員登録時も「Googleでログイン」等が用意されていて、ストレスフリーな購入体験を実現していた。
地方銀行が運営するECサイトをデジタルマーケティング観点で採点した結果、2021年は平均33.5点、2024年(今回)は平均33.8点と、ほぼ横ばいの結果となった。
「ゲスト購入を設けない(会員登録必須)」「リピーター向けにトップページでは新着商品を紹介する」など、3年前より普及している勝ちパターンもあるが、以下のような主要な施策がまだまだ抜け落ちている状態だ。
Amazon Payを導入して初回購入のハードルを下げる
定期購入商品で売上の土台を作りながら継続的に接触、追加購入を促す
「初回購入のハードルを下げること」「一度購入してくれたユーザに接触し続けて追加購入を促すこと」が欠かせないECサイトにおいて、特に上記はすぐにでも取り組むべきである。
また、ECをはじめWebサイトは “公開して終わり” ではない。アクセスデータからユーザが躓いているポイントを見つけ出し、それらを解消することでコンバージョン率を上げていくものである。当レポートで紹介している勝ちパターンをもとにテコ入れをおこない、ぜひ売上UPにつなげてもらいたい。
ECサイトの定石を適用できるかどうかは、導入しているシステムの影響を大きく受ける。特にカート、商品詳細、商品一覧などの動的ページを、後から思い通りに直すことは非常に難しい。
ECサイトを立ち上げる前段階から、綿密に定石を意識したWebサイト設計が必要である。もしこれから立ち上げを検討している地方銀行があるならば、システム選定前にプロフェッショナルに相談することを推奨する。
一方で、既にECを立ち上げてしまった地方銀行からすれば、後の祭りとしか言いようがない。定石をひとつ適用するだけでも、数百万円の追加費用を請求される。
こうしたケースでは、まず売上を伸ばすなど成果を出し、追加投資の意義を説明する必要がある。定石を踏襲していない劣悪なUIのECサイトでも、運用領域であるCRM(メール等)、商品設計、値引きの3点でPDCAを回せば、売上を大きく伸ばすことも可能だろう。まずは既存顧客のデータベースを構築してLTVを伸ばしてから社内への説得を始めてみよう。
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